そ の た ゆ め
□ドーナツ
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あたしが所属している部活。
それは、家庭部。
別に華やかでもなければ、伝統だとかそんな大それたものもない。
なのに、こんな少人数で地味な部活がこのアッシュフォード学園で廃部にならないのには、ちゃんとした理由がある。
……まぁ、部長であるあたししか知らないのだけれど。
「よい、しょ…!」
今日もあたしは、部活動という名目で作ったお菓子を運んでいた。
――学園生徒会室に。
でももう慣れたもので、あるお菓子が乗る大皿を片手に持ち替えると、あたしはその立派な扉をノックする。
そして、中の声に「ミレイさーん、いつものでーす」と答えれば、今日もすぐにその扉は開いた。
「は〜い、いらっしゃーい」
にこっと綺麗な笑顔のミレイさんが出迎えてくれた。
そのまま中に入ると、今度はシャーリーが声を弾ませる。
「!ドーナツだぁ〜」
その素直な声に、室内に居た女性役員が集まってきた。
(……若干男性(リヴァル)も混じってるけれど、ミレイさんにお茶の準備を任されている。)
そんな光景に小さく笑いつつも、次々と減っていくドーナツに自然とあたしも嬉しくなった。
「ん〜!やっぱり美味しいわねー!」
いつもありがとう、
ひとり幸せをかみしめていたら、ミレイさんはくすっと笑ってあたしに言った。
実はこれが、小さな家庭部が学園内で存続している理由なのだ。
(……まぁ、言ってしまえばミレイさん直々に持ち掛けられたことなんだけれど。)
「?、そういえば…スザクくんとルルーシュはいないんだ?」
今日は女性役員ばっかりですねぇ?
なんて、そう小さく漏らせば、カレンさんが説明してくれた。
どうやらその話によると、スザクくんは例のお仕事で不在。ルルーシュのことはよく分からないらしい。
「あの子、普段からやる気ないからご褒美なしでいいわよー」
「じゃあさっさと食っちゃおう!」
キヒヒと笑い合うミレイさんとリヴァルを見ていれば、ふとニーナに質問された。
「…ご一緒しないんですか?」
「あ、うん。みんなのだからね〜」
そう話していたら、ミレイさんが目を光らせて最後の一個を掴んだ。
「!あ〜っ」
「ずるーい!」
口々に飛び交うブーイングの嵐。
けれど、実際そのドーナツが運ばれたのは、あたしの口だった。
「!、んぐっ!?」
「あなたも食べなきゃ。ね?」
ミレイさんの思いがけない言葉にさっきまでブーイングの嵐だった室内は、彼女を褒めたり彼女をからかったりする言葉で再び賑やかになった。
そんな時。
「!?」
「あ〜っ!」
「おっそーい」
「やっと来たよルルーシュ〜…」
今まで不在だった彼が入ってきた。
「今日も賑やかだと思ったら…何ですかこれは…」
たじたじなルルーシュに、ミレイさんは飄々とあしらう。
けれどまた、そんな様子を呑気に見つつドーナツを食べていたら、来たばかりの彼と目が合ってしまった。
「へぇ…?」
「?」
「ドーナツ…ですか、会長」
「!ななななっ!?」
慌てるミレイさんと同様、流石にこれはあたしもやばい!と思った。
「……っむう!」
ミレイさんにもシャーリーにも急かされ応援されるまま、大口で頬張るあたし。
けれど、見事あたしのその努力は実を結ばず、口に入りきらずまだ片手にあったドーナツはいとも簡単に奪われてしまう。
「!」
「残念、だったね…家庭部部長さん」
…本当にあっという間だった。
片手からドーナツがなくなり、いつの間にかそのドーナツはルルーシュの長くて細い手の中で。
彼は当たり前のようにあたしの食べかけをかじった。
「ん、これなら…会長やシャーリーが騒いでるのも分かりますね、」
「?はい?」
ぽかんとしてルルーシュを見やるも、彼は ふっ…と口元を緩ませただけだった。
「ミレイさん…取られた…」
「大丈夫よっ会長命令で何とかするから!」
(……ルルーシュあの子のこと好きなのかな…?)
「ルルーシュ!」
「?何ですか?会長」
「罰として片付け手伝ってあげなさいよ!いいわねっ?」
「!ミっミレイさん結構ですぅ…!」
「じゃあ行きますか?家庭部部長さん、?」
(うっそ!拒否権なし…!?)
改めて、あたしはルルーシュが苦手だと思った。
その余裕げな笑みも、他人を鼻にかけるような話し方も…
何より許せないのは、あたしの大好きなドーナツを横取りしたことだった。
(悔しい…!
ドーナツとあたしのときめき返せっ!!)
E N D.*20090331*