そ の た ゆ め
□心音
1ページ/1ページ
桜舞う季節。
そんな中、大勢の生徒に紛れてあたしはいた。
入学式も終わり、校門までの道のりを利用した部活動の勧誘。
お嬢様学校である故、やはりバリバリな暑苦しい勧誘がウケない中、遥か列の向こうに人だかりがあった。
「はいはーい、ホスト部でーす」
「おねーさん良かったら僕たちとお茶しなーい?」
まるでユニゾンするような勧誘に視線を泳がせれば、その先には双子の男の子。
とりあえず目が合ってしまったので軽くお辞儀をしてそのまま過ぎれば、今度は一際元気な高い声と一際低い声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ!僕とウサちゃんと崇とぉ…一緒にケーキ食べよぉ!」
「…ホスト部、です」
「……」
あれ…
確かさっきの双子もホスト部って言ってたような…。
一体この部活は何人を勧誘に出してるんだろう…?と思いながらもにこやかに笑ってここも過ぎると、今度は打って変わって落ち着きのある礼儀正しい声が聞こえた。
「ご入学おめでとう御座います。宜しければこの後私達とお茶でもいかがですか?姫」
…ん?
そんな声に顔をあげると、まず疑問を感じた。
黒髪眼鏡の人ひとりなのに『私達』と言ったことと、お嬢様学校とはいえナチュラルに『姫』と呼ばれたこと。
その2つに思わず足を止めてしまえば、その黒髪眼鏡の人は本当ににっこり…と微笑んだ。
「ありがとうございます。興味がおありのようですね、」
尚も崩れない、その営業スマイルにも近い微笑みに軽く感心していれば、ふとその営業スマイルの向こうから爽やかな声がするのが聞こえた。
「鏡夜ーっ調子はどうだっ?」
「…!」
すると、途端に世界が変わった気がした。
綺麗すぎるさらさらの金髪に輝くほどの王子のような容姿。
そんな人物のいきなりの登場にぼーっと見とれていると、不意に視線がかち合ってその王子様はあたしの目の前で跪いた。
……え?
それから、流れるような動作であたしの手を取ると口の前まで引き寄せそのままかざす。
すると何故か、悲鳴にも近い歓声が湧いた気がした。
「…ようこそ、姫。ホスト部部長の須王環と申します」
……あぁ。この人もあたしを姫と呼ぶのか…なんてふわふわの頭で思っていると、そのあたしの手を取る彼はふわりと微笑んだ。
「宜しければ第三音楽室にいらして下さい。姫君の為に最高のおもてなしをご用意してホスト部全員でお待ちしております…」
「、えっ?」
そう言うよりも早く、彼はあたしの手の甲に唇を優しく寄せた。
その動作はまるで一瞬で。
甲に感じた感覚も、触れたか触れないか分からないくらいだった。
……ぁあこの音はなんだろう…。
血管が脈打って、驚くくらい早い間隔でどきどきが聞こえてくる。
頬に熱が集まるのを感じながら金髪の王子様をもう一度見つめれば、瞬間あたし達の間を桜吹雪がザァッと舞った。
(…きっとこれを一目惚れと言うんだ、)
E N D
2009 04 23.*20090511*