そ の た ゆ め
□モノクロ
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まさか。
こんなにも苦しい恋をするとは思ってもいませんでした。
坊ちゃんを寝かしつけた後、静かな廊下を歩いて行くと、月明かりが差し込む空間が見えます。
その窓からガラス一枚隔てた向こうに目を向けると、月光を浴びる薔薇の赤と力強い葉の緑色が美しく主張していました。
(…今夜は満月ですか、)
目を細めふっと小さく息を吐くと、どこか遠くから生き物の鳴き声が紛れて聞こえます。
ぁあ、この声はもしや…
再び手元のランプの明かりを頼りに裏口を目指し、その声に導かれるように歩を進めました。
すると、その薔薇の植え込みの下に小さくうずくまる綺麗な黒猫がいました。
「今晩は…お嬢さん、」
跪いて片手をのばすと、その黒い女性は慣れた様子で私の手袋に頬を擦り寄せました。
「くす、随分と素直な女性のようですねぇ…」
それに気分を良くし数回額を撫でてあげると、私はその黒猫を抱き寄せました。
するとその途中、小さくいやらしい鳴き声が耳に響きました。
「これはこれは…」
――とても私好みの女性ですね、
そう言ってそのまま彼女の片手を掬うと、彼女も気を良くしたのか指先にザラリとした温度が触れました。
…彼女なりの愛情表現でしょうか。
「良かったら明日も…私に会いに来てくれませんか?」
まるで、人間の女性に囁くように耳元で言えば、黒い女性も片耳をぴくんとさせます。
そんな様子を承諾の合図と受け取ると、私はやっと彼女を解放してあげました。
「…では、お休みなさい、お嬢様。」
―明日もまた、私たち2人のモノクロの世界でお会いしましょう、
E N D
2009 04 23.*20090511*