ぶ り ー ち
□×2 [1]
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「…あ…れ?」
突如、ふと感じた違和感。
いつもの見慣れた空間に、僅かに存在する不思議な感覚。
自分の部屋なのに、何だか変な予感がした。
「……ん?あそこに居たザエルアポロは…?」
自分に言い聞かせるように小さく呟くと、あたしは部屋の中を軽く見回した。
だって…
少し前に手に入れて飾っておいたザエルアポロの四等身ぬいぐるみがなくなっているから。
「?あたし何もしてないよね…?」
そう言ってここ最近の自分を振り返っていると、不意に視界に何かが動くのが目に入った。
「!…まさかっ?」
視界の外れでもぞもぞと動くそれは確かにピンク色が紛れていて…
挙げ句の果てにはあたしの幻聴か、何か言葉まで聞こえた。
「えぇと…?」
「……」
―まさかここまで低脳なメスだったとはな、
「―!?」
今度ははっきり聞こえた声にその方を見ると、確かにそこには今まであたしが探していたザエルアポロの四等身ぬいぐるみが居た。
「………」
「、何だ?そのマヌケ面は」
「!!!」
小さな口から紡がれたその言葉。
それは確かに…この人形からで…
「ザエル…アポロ…?」
「あぁ何だい?」
「……」
「先ほどから物凄い不細工な顔だぞ?人間のメス」
「……」
ここであたしはふと思った。
四等身というとてつもなく可愛らしい見た目なのに、このザエルアポロの中身ははるかに予想を超えるほどの生意気で毒舌な奴だと!
「……ちなみに戻る方法は?」
「それは僕にも分かり兼ねる質問だ」
「!!」
気付いたらあたしは怒鳴り散らしていた。
…目の前の小さな人形みたいなザエルアポロに。
「アホかっ!!だったら今の状況は何!説明してっ何であんたはちっさいの?てゆか何でうちに来たのさっ!」
「…フン。ならば、答えられる範囲で良ければ教えてやろう」
「!」
「まず、原因は不明だ。気付いたら現世に飛ばされていた」
「……心当たりは」
「、一つだけならある」
「!」
その言葉に何かの糸口となるようなことを期待をするように、あたしは身を乗り出して彼に耳を傾けた。
そして、とても分かりづらく説明するザエルアポロの話をまとめると、つまりはこういうことらしい。
「―…ってことは、ザエルアポロは新しい兵器を開発する実験をしていたと。んで、その最中に手元が狂った、と?」
「まぁそんな所だ」
小さな身長故こちらを見上げながらも前髪をかきあげるザエルアポロだけれど、何だかもう今のあたしにはある感情だけが沸々と湧き上がっていた。
「…ねぇ。それにしてもちっちゃいザエルアポロって可愛いのね?」
「……ハッ。貴様、何を言うかと思えば…」
「ね。手に乗っけてい?」
「哀れだよ全く…」
「?」
小さくて短い片手を腰に当てると、ザエルアポロはフンッとこちらを見上げた。
「今回ばかりは自分が哀れで仕方がないね… まさかこんなにも脳天気で下等な人間のメスの世話になるとは…」
「……」
確かに、ザエルアポロの言っていることはありえないくらい失礼だし、ありえないくらい酷い。
でも、今のザエルアポロの姿がありえないくらい可愛いのも事実なのだ。
「う〜ん…」
「今度は何だ?」
怪訝そうに眉を寄せるザエルアポロ。
そんな小さな彼を優しく包むようにすくい上げると、あたしは最高に不機嫌な彼を手のひらに乗せた。
「こうして手のひらに乗るくらいちっちゃいなら……しばらく泊めてもいいよ?」
「―!」
すると意外にも驚きで目を見開いたザエルアポロ。
手のひらごと持ち上げて目線を合わせ再びそう言えば、案の定彼らしい言葉が返ってきた。
「まぁ、貴様がそう言うなら僕にも断る理由はない」
「!じゃあお泊まり決定!?」
「…ただし先に条件がある。」
「?」
あたしの手のひらの上で得意気に眼鏡をクイッと上げる彼。
何?、と質問してみればそれは更にあたしの口から「可愛い」と言わせてしまうようなものだった。
「?なぁにザエルアポロ?」
「…お前だけが僕の名を知っているなんて不平等だと思わないか?」
「ん?」
「だから名を名乗れ。僕も貴様の名前くらい知っておいてやる」
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