そ の た ゆ め

□月曜日
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「長い黒髪の女の人、かぁ…
女性なら僕たちの知り合いにはいないはずだよね?」

「…そうなんだよアル。
なのに何であんな気になってんだよオレは…」


立ち話もなんだし休憩ついでに店に入ろうよ、とアルの提案で入ったお店は小さいながらも人気も多く活気もあって。
さっき吐いたオレのため息がとても場違いなくらい、店内は賑やかだった。



「なーアル〜…なんか自分にムカつ「兄さんあれ!」

「あ?」

「あそこで注文取ってる女の人… 兄さんが見た人じゃないの!?」


思いがけないアルの言葉に半信半疑で視線を移してみる。



「…」

「に、兄さん…?」

「やべーアル…そうかも…」


軽く放心状態のまま呟くと、隣から「やったね兄さん!」と自分のことの様に喜ぶアルがいた。



「あの…!注文お願いします!」


へ?

その直後、聞こえたアルの声。
そして、こちらにやってくる黒髪の少女。

その、不思議な雰囲気にオレは柄にもなく目を奪われた。



「えーと、僕じゃなくて……兄さん決まった?」

「え、あ?……ぁあ――」


『…くす。もしまだお決まりでないのなら当店のお勧めはいかがですか?』

「……あぁ、じゃあそれで、」


突然の言葉に動揺し、気の利いた反応も出来ずに言われるまま答えたら目の前の少女はお決まりの言葉を残して店の奥に消えていった。



「ねぇ兄さん?ここのお勧めって何だろうね?」

「…さぁな。飲み物の店なんだから飲み物なんじゃねーのか?」


思うままに口を開いたら、そこの店長らしきアゴ髭のおっさんがニコニコしながら割ってきた。



『わっはは!お兄ちゃん喜びな。俺の店では毎週月曜日にちょっとしたサービスをやっててなァ』

「…サービス?」

『ぁあ〜そうさ。さっきウチの娘が居ただろう?まぁ言っちゃえばあいつの気紛れなんだが その人のためだけに特別にブレンドしたコーヒーを出してるんだよ。…すんげぇだろ!?』


なんて、得意気に熱く語るアゴ髭のおっさんの“娘”という言葉に度肝を抜かれつつも耳を傾けていたら、丁度注文したものが運ばれてきた。




『お待たせしました。こちら、当店のお勧めです』

「…さんきゅ」


品の良いサービスに自分もならって礼を言うと、鼻に届く香りに思わずカップを掴む手が止まった。



『どうだ?良いにおいだろー!兄ちゃん』

「…あぁ。オレ、コーヒーとか詳しくないけど今すげーって思った…」


カップの中の液体に視線を落としながら言えば、カウンターから さっきのアゴ髭のおっさんと黒髪の少女の嬉しそうな笑い声が耳に届いてきた。



『ふふ!こんなに感動してくれたのは貴方が初めてよ』

「え、あ…オレは何も…」

『ううん、ありがとう!
良かったらまた、うちに飲みに来て下さいね?今度は鎧のお兄さんにもご馳走するわ!』





それが…
旅の途中で出逢った出来事。

あのおっさんも、その黒髪の娘の名前も何も知らないけど。
多分、またいつか会えるんだろうな…
何の根拠もないのに不思議とそう思った。








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それから数ヶ月が経ったある日。
またオレたちは探し物の途中でこの街にいた。



「兄さん!久しぶりだね、この街」

「あぁ。…なぁアル、」

「何だい?兄さん」

「今日…何曜日だか分かるか?」

「…今日?今日は確か月曜…――!」

「あぁ!久しぶりにコーヒーでも飲みに行くか!」




旅の途中に必要なもの。

それは、気紛れで適度な息抜き





 E N D
加筆+修正>>>2009/04/01.*20090402*
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