サイクロ

□〜貴方がくれたぬくもり〜
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今日は今年一番の冷え込みなんだって



〜貴方がくれたぬくもり〜



この前拾ってきた部品で何を作ろうか?

今日の晩ご飯は何にしようか?

クロに逢ったら何を仕掛けようか?

些細な会話を交わしながらボク達は歩いている

向かう先は、真っ黒プリンスと大工猫が住まう藤井家

先日、『この寒いのにキッドの奴がまた家を壊しやがった』とマタタビくんが文句を言いながら頑張っていたから、きっとピカピカの新築が建っていることだろう

ボク達の家は冬になると隙間風が酷いから新築なり改装なりして貰いたいところだけど直ぐにクロが邪魔するんだよね


寒いっていえば今年は随分と気温が低いらしい

ボク達が偶に観る天気予報は
『明日は今年一番の冷え込み』を数日に一度は更新している

ボク達が歩いているのはそのせいだ


『大変です剛博士!!僕達の家は暑さには耐えられても、冬の寒さには耐えられません!!特にこの隙間風にはっ!!』

『誰だ!?今年は暖冬なんて言った奴は!?』

『気象予報士です。剛博士!!』

『おのれ気象予報士めぇ〜!!』


って、歯をガチガチさせながら剛くんとコタローくんは言っていた

だから、寒がりな猫が二匹もいる(その内の一匹はボクと同じ筈なんだけど)藤井家は暖かいと践んで暖を取りに行くんだ

本当は暑さ以外、ボクにとってはあんまり関係ないんだけど、剛くんと離れる理由はないし、一緒について行くことにした

因みにコタローくんはナナちゃんの家に向かっている

あの二人のことだから、そのうちクロの家に来そうだけどね




真っ赤な手と義手を擦り合わせながら「はぁっ」と白い息を吐いて剛くんは『寒いね』って言った

『そうだね』ってボクは応える


そうとしか応えられない


舞い落ちる雪はボクや剛くんの頭や肩にどんどん積もっていく

気温と同じになる体温

血が通わない、温かくない躯

積もっても溶けない雪

それがボクにとって当たり前だし、それがボクが生きている証

あの子がくれた命と

剛くんが必死に繋いでくれた技術でボクは生かされた

この躯はあの子の部品から造られたものだ

ボクはあの子と一緒に生きている

この躯は剛くんが必死に造ったもの

ボクとあの子の為に

二人が生き残るために


だからボクはあの子と剛くんと一緒に今を生きている

だから、この躯はすごく好き




でも・・・

でもね・・・

一瞬、本当に一瞬だけ

繋いだ手の温かさが分かればなって思う時があるんだ


だって、ボクは機械

サイボーグって言ってもやっぱり半分以上は機械だから


何度っていう数字で測って見る温度は分かっても触れて感じる温もりは分からない

手で触れて分かるのは数値だけ

今のボクには普通の生き物が持っている『温度を脳へ伝える』というその感覚が無いからだ

あの頃は何も考えなくても分かっていたはずなのに、今では思い出すだけで精一杯


寒くて震えている剛くんを温めてあげることも出来ない



「・・・冷たいんだろうな」

自分では分からないけど

これだけ雪が積もって溶けないんだから、矢っ張りボクの躯は冷たいんだろうな

こういう時は『寒い』って言うんだろうな



終わる筈だったボクの命は、剛くん達のおかげで繋がれた

これ以上のことを望んだら、きっと罰が当たる


でも、剛くんを温めてあげられないことが、悔しい





「ミーくん!!」

「うわぁっ!?」

前を歩いていた剛くんが急に抱きついてきて危うく倒れるところだった

「剛くん!!急に飛びつかれたらビックリするよ!!」

「ゴメンねミーくん!!」

素直に謝って、剛くんは・・・

「・・・剛くん?」

「寒いね」

「えっ?あ・・・うん」

「ミーくんだって寒いよね。ゴメンね」


ううん・・・寒くないよ

ボクはサイボーグだもの

暑いとオーバーヒートしちゃうけど、寒いなんて感じないよ

「大丈夫だよ剛くん。ほら、冷たいでしょ?」

ボクは冷たいでしょ?

冷たい金属に寒さは関係ない

逆に、剛くんの体温を奪っちゃうんだから

「ボクは寒さなんかへっちゃらだよ剛くん」


「そう?じゃあ、こうしよう」


そう言って差し出されたのは剛くんの右腕・・・義手の方だ


「こっちならミーくんと手を繋いでも寒くないよ」


それに、仲良しカップルみたいでしょ?


ウィンクして剛くんは鼻歌を歌いながら歩き出した

ボクも手を引かれて、歩き出す



あぁ、これが『温かい』

躯は冷たいはずなのに、剛くんと繋いだ手が『温かい』

分からないはずなのに、分かる気がする

剛くんの心の温もりが、手を伝ってボクに届くんだ



金属と金属が触れ合っている筈なのに


すごく、すごく、『温かい』




ボクは、なんて幸せなんだろう




「剛くん・・・大好き」



「儂もだよ、ミーくん」






終わり














「「お邪魔しまーす!!」」

「「暑苦しい。帰れバカップル」」



雪ですら
積もらず溶ける
ラブパワー
ウザいカップル
ただ殴るべし(笑)

(無駄に短歌風で締めてみる)

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