サイクロ

□各1ページで終わる堕文。
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空を見上げて、瞳を閉じた。





内に残る喪失感



胸に空いた、小さな穴は



長い時間をかけて



空気が抜けていく



それは、まるで、風船。



少しずつ、募っていく悲しみは



掌をすり抜けていく



それは、まるで、砂。





今日も空は青く、雲は白い。





アンタがいなくなっても、世界は変わらない。



このまま、時間は当たり前のように過ぎていく。



季節は巡って、巡って、巡って。



朝がきて、昼がきて、夜がきて。



時間が経てば、いつかは、この悲しみも無くなっていくのだろう。



それでも、あの穏やかな日々は



もう、二度とは来ない。



『おはよう』も

『いってこい』も

『おかえり』も

『おやすみ』も



あの声は、二度と聞けないモノ。



あっと言う間だった。



今思えば、一瞬。



ほんの一瞬。



だからこそ、大事なもの。



二度と手に入らない宝物。



「忘れないよ…爺さん」



アンタの声も仕種も全部全部、何もかも。





空を見上げて、瞳を開いた。





アンタに笑われないような、俺らしい生き方をするよ。



だけど



「今日くらい…泣いたって…アンタだって、笑わねぇよな」



楽しかった/大好きだから

優しい日々に/幸せだったよ

さよならを/また会う日まで



アンタのいない、この家は、広かった。



無くしたモノは大きかった、と



止まらない涙を拭いながら、そう、思った。








好きだった人がいなくなったら、きっとこんな気持ちになるだろうな…と。
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