それいけSSS

多分ゲン孫
◆桜の枝 


今年も見事に咲き誇った自宅の桜。
満開の所を一枝手折り、教室に飾ろうかとゲンマは教室に向かっていた。

学園内に入って暫く歩いていた所、見覚えのある姿を見付けた。
生徒会長、祠堂孫六。
また何か悪さを企んでいるのかとも思ったが流石にこんな早朝からは…と思い直す。
するとこちらの存在に気付いた祠堂がわざわざ近付いてくる。
いつもは逃げていくのに珍しいことだ。

「お前に桜なんて珍しい組み合わせですし」

成る程、それが言いたかったのか。
ニヤニヤと笑う祠堂を正面から見てみる。
色素の薄い肌、艶やかな髪、血色の良い頬と唇、整った顔立ちに吸い込まれそうな青い瞳。

(春、という感じだな)

見た目と雰囲気だけなら男にしても美人と表現していいだろう。
優雅な佇まいは春の陽気。
柔らかな動きは吹き抜ける春風。
その瞳は澄んだ青空。
ただし口を開けば総て台無しだが。

「な、なんですし?」

暫く見続ければ次第に祠堂が焦り始めたようだ。
いつもは一目散に逃げ出す所をこんなに長時間真っ正面に立っているのだから無理も無い。

(あぁ、そういえば…)

無言で手を伸ばせば殴られると思ったのか小さく悲鳴を上げて強く目を瞑り首を竦められた。
ファイト以外での接点はあまり無いが、奴の中で俺はどんな人物になっているのか心底不思議になってしまう。

「うむ、よく似合っているぞ」

祠堂の髪に桜の枝を挿してみたのだが本当によく似合っている。
服の色も深緑なので余計に桜が映えるのだ。

そろりそろりと瞳を開いた祠堂が俺の指差した箇所に恐る恐る触れ、漸くそれが桜の枝だと分かったようだ。
キョトンとした顔が、まるで小動物のようで、あまりにも可愛く見えたので…。

「貴様は桜が良く映えるな」

思わず微笑んでしまった。

すると何故か祠堂が下を向いて震えながら顔を真っ赤に染めていく。
…褒めているのに何故怒るんだ?

「お前…お前ぇ…」

絞り出すような声で呟くと、ビシィッと音がしそうな勢いで指を差された。
同時に上げられた顔は真っ赤で、おまけに目には涙が滲んでいる。

とりあえず『人を指差すな祠堂。行儀が悪いぞ』と口を開く前に。

「お前…気障ですしぃーッ!!」

そう叫ぶと祠堂は踵を返して走りだした。
あっけにとられる中、走る祠堂の手が頭上の枝にしっかり添えているのが見えて。

「…なかなか可愛いものだな」

一人残された俺は離れていくその姿が見えなくなるまで小さく笑い続けていた。


おわり。


2015/05/23(Sat) 04:44

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