それいけSSS
多分ゲン孫
◆ファーストキス
偶々、本当に偶然だが池の中に祠堂孫六がいた。
何故池の中に入っているのか不思議でしょうがない。
少しずつ近付き、学園内の池で何をしている、と注意する気だったのだが俺の姿を見付けた奴は馬鹿の一つ覚えのように『助けて』としか言わない。
プライドの高い奴が『助けて』など、また何か企んでいるのかとも思ったが奴の顔色は少しずつ悪くなっているような気がした。
バシャバシャと跳ねる水飛沫が少しずつ勢いを無くしていく。
そういえば体力の無い奴だったと考えた瞬間、奴の姿が視界から消えた。
『まさか溺れているのか!?』
その結論に至ると同時に地を駆け池へ飛び込んだ。
仮に奴が何かを企んでいるとしても未然に阻止してしまえばいいのだ。
あれが演技だったら見事に騙されたと笑ってやろう。
しかし今奴が本当に溺れているのだとしたら事態は一刻を争う。
そしてここで動かなければ俺は絶対に後悔するのだ。
『祠堂!』
視界の隅に沈み行く祠堂の姿を捉えた。
苦悶の表情を浮かべながら片手を口に添え、もう片方を弱く天に伸ばしている。
演技ではない。
本当に溺れて、死に掛けている。
『祠堂!』
声が泡になって上に昇る。
しかしそのお陰で祠堂が此方の存在に気付いたようだ。
苦悶の顔が、泣き出しそうなそれに変わる。
『轟鬼…』
『祠堂!?』
助けが来たことに安心して油断したのか、祠堂の口から大量の泡が溢れ出る。
元々体力の無い奴だから、限界だったのかもしれない。
目を見開き喉を押さえて震えると、静かに俺を見つめながらゆっくりと瞳を閉じる。
先程まで強張っていた全身から力が抜け、暗い水底に向かって体が傾いた。
落ち行くその腕を掴んで遙かな水面を目指すが着衣の状態では水の抵抗が強く、思うように進まない。
このままでは、祠堂が本当に死んでしまう。
俺は力の抜けた体を抱き寄せ、そっと空気を送り込んだ。
「ゴホッ…僕の、ファーストキスが…」
「…命が助かっただけ有り難いと思え馬鹿者」
つい先日はキスの日だったので。
2015/05/25(Mon) 10:24
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