Spell Cogs

□第四話 緊迫の船旅
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(うわー…!海ってこんなに綺麗なんだー!)

海の上を走るこの大きな客船の甲板。
ノースは手すりに腰を降ろして、行き場をなくした両足をぶらぶらと揺らしながら、足元を流れる海をただ眺めていた。
バランスを崩せば簡単に海に落ちてしまいかねない体勢を、甲板に居合わせている他の乗客がちらちらと見やるが、ノースはそんなこと気にも留めない。
落としていた視線を一気に上げ、今度は太陽が眩しい青空を仰いだ。

(風もすっごい気持ちい!)

自分の髪を揺らす海の風も、それが運んでくる潮のにおいも、ノースは始めてだった。
船首の方はいくつかのテーブルと椅子が設置されていて、そこでお茶を楽しむ乗客もちらほらと居る。鴎は相変わらず空を飛び交い声を上げているし、ボーっと音を立てて船から出た煙は、風に運ばれて後方へと流れていく。
溜息が出るくらい、のんびりとした静かな時間。特にどこを見るわけでもなく、ノースは海の方へと視線を投げた。

普通の定期船ではない、少しばかり豪華な客船。
船に乗るのは初めてのノースでも、この船がどれだけ上等なものかは解かった。
と言うのも、本当は定期船に乗る予定だったのだが、一番早い時間に出発するのがこの船だったと言う理由で、倍近い値段のこの船のチケットを、シウダードが手配してきたのだ。

「早く着くしゆっくりできるし、いいんじゃない?たまには」と、笑いながら言うシウダードの後頭部を軽く叩いてフィエスタは盛大に溜息をついていたっけ。
数時間前の幼馴染のやりとりを思い出し、ノースは微笑んだ。


「…そんなところにいて、落ちたって知らないわよ」


ふいに背後からかかった聞き覚えのある声に、ノースは勢いよく振り返った。
しかしその時、体重を預けていた手すりに捕まる手を滑らせてしまい、体勢を立て直す余裕もなく、派手な音を立てて甲板に背中から落下した。

「いったぁ…うぅ」

甲板に座り込んだまま、俯いて打った背中を擦っていると、すっと目の前に手が差し出された。
ゆっくりと顔を上げるとやはり――先ほど声をかけてきたティエラが呆れ顔で立っていた。


「だから言ったのよ…。早く立ちなさい」
「あ…ありがと!」

差し出された手を借り、ノースはゆっくりと立ち上がった。それを確認すると、ティエラはそのまま手すりに凭れ掛かり、先ほどまでのノースと同じように海に視線を投げた。
船に乗る時には被っていた青い帽子は部屋に置いて来たのだろう、解放された美しい金髪が風の流れに合わせて踊る。そんな王女の隣に場所を確保し、ノースも同じように手すりに凭れ掛かった。



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