Spell Cogs

□過去の物語 ティエラ
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それは、もう10年も前の話――





「おかあさまー!」


魔法界の中心地、ネオテス城に響く声
その主はこの城の王妃の娘――ティエラだった
小さいながらも、姫らしい上品なドレスをその身に纏い、頭につけられた大きなリボンの下からは、今と変わらないくるくると踊る金の髪が揺れる
ドレスを踏んでしまうのではないかと周囲の者を心配させる覚束無い足取りで城の廊下を、その小さな両手に一輪の花が生けられた一輪挿しを抱えたまま走る

「ねぇねぇ、おかあさま!」

「どうしたの?」

愛娘に呼ばれ、振り返る
その動作に美しい長い金髪が揺れた――彼女はティーネ・ネオテス
この城の現王女であり、ティエラの母親であった女性
ティエラは母の元まで駆け寄ると、抱えた一輪挿しを目一杯掲げる

「あのね、おはな…かれちゃった」

ティーネに差し出された花は、確かに枯れてしまっていた
花だからいつかは枯れるものなのだが、娘の表情は完全に沈んでしまっている
この花は、先日城の庭園に咲いていたものをティエラがひどく気に入って、庭師に一輪与えられたものだったからだ
ティーネがそっと花に手を触れると、もう乾燥してしまっていて花びらが一枚、簡単に落ちた

「ティエラは…このお花、凄く気に入っていたものね」

「ねぇ!おかあさま!まほう!まほうでいきかえらせてよ!」

なるほど、とティーネは思った
ティエラはもう魔法についての大体の説明を、教育係から受けているのだろう
元々王族では無かったティーネは、結婚するまでは回復系の魔法使いだった
恐らくそのことを知って、自分の元を訪れたのだろう
花でも、回復魔法にかかればまた、蘇ると思い込んでいるのだろう
膝を折り、娘の瞳の高さまで目線を落し、一輪挿しを持つ手に重ねるように両手を添えると、ティーネはにっこりと微笑んでみせた

「…ティエラ、それはダメなの」

「えー!どうしてぇ?」

ゆっくりと言われた言葉に、ティエラは不満の声をあげる
今までティーネがティエラからのお願いを断ったことなど、無かったからだ
ティーネはそっと瞳を閉じ、両手に魔力を集中しながらティエラに語りかける
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