anniversary

□愛とチョコを貴方に
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【バレンタインデイキッス】



 シャナという子は弱冠12歳にして博士号を持つ超天才児で、何故か日本の高校に飛び級で入学した変わり者。


 且つ、私のクラスメート。


 人形のような顔立ちの美少年だけれど、その中身は気難し屋で言葉には棘を持つ。



 そんな誰もが避ける彼を、何故か世話をする事になってしまった私。


 正直、最初はとても手に負えたもんじゃなくて、私もほとほと困り果てていた。


 彼も彼で顔を付き合わせれば嫌味を零してばかりだし。


 正直、

 私達、仲良くはなれないと思ってた。


 でも、



 だけど――



 * * *


 西日が僅かに差し込む旧校舎内の図書室。

 現在は誰も読まなくなった古い本が列をなす、埃臭い旧図書室はシャナにとっての宝箱だと言う事を私はよく知っている。

 土曜の今日だって、学校は休みだと言うのに彼はそんな事も関係なくそこに忍び込んでは本を漁る。


 光の当たる、西側の窓際。

 逆光を浴び、木製の踏み台に腰掛けるシャナを見つけて私は、緊張する胸を押さえて彼の元へと歩み寄る。


「――シャナ。此処、生徒は立入り禁止だっていつも言ってるでしょ」


「……ヒナギク……。でも、そこについて来る君だって同罪だといつも僕は言ってるだろ」


 私に見つかるや否や、彼は黒髪の隙間から覗く赤味の帯びた瞳を細めて息をつく。

 一瞬、私の姿を見て驚いたようだけど、それは仕方のない事だろう。


「土曜休みの日まで此処にいたいの?」


「そういう君だって、わざわざ休日を潰してまで此処に来る必要はないじゃないか」


 必要は、あるんだよ。


 頭に浮かぶ反論が何故か声に出ない。


 もどかしいな。


 どうして肝心な時にいつもの強気は出ないのだろう。

 私は肩に下げていたバックを胸元でギュッと抱き締め、所在無く佇む。

 目の前に君がいるのに、何故か君が遠くに感じる。

 今までなら、私は彼の隣りに座って、訳も分からない本の中身について強引に解説を求めていた。

 少し前までなら出来た事なのに、今はそれも難しい。

 奮い立たせた勇気は、今一歩力及ばずと言った所か。

 それでも今帰ってしまっては、何の為にわざわざ休日の今日、此処まで来たのか意味がない。



 だって私は――


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