天使ですよ
□01「その手があったか」
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高校入学を控えた三月下旬、春休み。
いくら休日とは言え、健全な肉体は規則正しい生活から養われる。
という訳で、あたし、桂木 春の朝は早い。
鳩が鳴く目覚まし時計を止める時間は六時。
ベッドから抜け出し、カーテンを開けると爽やかな春の木洩れ日。
温かい光を浴びて、あたしは大きく深呼吸。
「お、洗濯日和」
雲一つない快晴を眺めてあたしはパジャマのボタンを解いて行く。
今日は洗濯物を干して、クリーニングのものを受け取って……。
着替えながら所帯地味た予定を立てる。
そして、丁度中程まで差し掛かった時だ。
「モーニン春ちゃん! 幸せですかぁ!?」
「おわぁぁっ」
目の前のクローゼットから飛び出したのは新緑眩しいカエルの着ぐるみ頭部だけ被ったスーツの男。
「セクハラ天使! 何処から出て来るっ」
「タロー君、今日は此処から出勤……って、アラ、着替え中?」
「帰れ」
はだけた胸を歯牙にもかけず、とにかくあたしはクローゼットの扉を無理矢理閉めにかかる。
中途半端に食み出た首から腕は、力任せな行動に無様に挟まった。
「痛い痛い痛いぃたたたたた……ヤバいヤバいマジヤバい、腕、腕が変な方向に曲がりそう」
締め上げられたカエルの鳴き声空しく扉は閉じられた。