天使ですよ
□04「何が狙いだ?」
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「何が狙いだ?」
鋭く刺すように光る灰褐色の瞳が少女を映す。
眩いばかりのプラチナブロンドの長い髪を翻し、少女は瞳に淡く涙を浮かべて首を横に振る。
「狙いなど何も……。ただ、あたしは真実を述べただけです」
華奢な体に豪奢なドレス。
傍目からはどう見ても裕福な貴族の娘にしか見えないのに、言葉遣いは何処か拙い。そんな少女の様子、態度を男はしげしげと観察し口を開く。
「名は?」
「え?」
怯えるように俯いていた少女は顔を上げ、日に焼けた大地のような明るい髪の男を見つめた。
均整のとれた端正な顔。長い手足に逞しい体躯。
どの女性もが憧れ、溜息をつくような青年を前に少女は更に頬を赤らめる。
「何をぼんやりしている。お前の話を信じてやるから、本当の名を教えろと言ってるのだ」
男に見惚れ、ぼやっとする少女に苛々して声を張った。
「ビエラと申します!」
慌てて答える少女の声もまた勢い余って大きくなる。
しかし、声を大にして話す事じゃないとすぐに声を小さく肩を竦めた。
「……ビエラでございます。アリトレール様……」
「ビエラか……。覚えてやろう。この名は私とお前だけ知っていればいいのだからな」
プラチナブロンドの髪を指で絡め、口付ける。
「お前の可愛い気持は確かに受け取った。……しかし、私とお前が幸せになるにはこの国は暮らしにくい。だから私を助けてくれはしないか?」
ビエラの細い指を手に取り、アリトレールは自分の頬へと寄せた。
灰褐色の瞳を甘くビエラへと流し、彼女の心を鷲掴む。
有無を言わせない熱い視線にビエラはただただ頷くしかない。
「はい……。はい、なんなりとアリトレール様……!」
そして二人は深く絡み付くようなキスを交わす。
「この契りは未来永劫二人だけの秘密――……」
それが甘く足を捕らえて離さない奈落への罠。
運命を変える序章。