天使ですよ
□05「無視かよ」
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夢のない話。
天国もある意味法治国家。
魂の選別、転生の手配、賽の河原の試練など……
数え上げたらキリがない程の仕事がある。
まず、親より先に死んだ子供には三途の川を渡る為の駄賃を稼ぐ為に設けられた『キューピット課』。
天命を全うした魂を天に導いたり、天命が来ても死なない生者を天へと催促を行ったりなどをする『死神課』。
そして、前世の徳が高かったり、人生において行いが良かった者へのサポートや、地獄から出所し転生した魂の監察する『天使課』等だ。
大きく分けてこの三つの部署が支部支局に分かれ自分の管轄地域を治めている。
何ともお役所仕事なのだが、必要な仕事なだけにある種の公務員制度は設けられてしまうのだ。
だから地上の現場で仕事をする者もいれば、天国でそれを指揮する管理官も出てくる。
「で、あの腐れぐるみタローはまだ地獄上がりの桂木の魂の状態を把握仕切れてないと言う事ですのね?」
届いた資料を眺め、穏やかな口調でソレは尋ねた。
「はい。初日に前世の片鱗を見せたきり、全く影響は出ていない模様です」
与えられた報告書を元に、銀縁フレームの眼鏡を上げて女性は真面目に答える。
「片鱗が出たという事は、少なからずともまっさらな白とは言いきれない訳ですか」
「左様でございます」
「全く、困ったものですね。時間は限られているとおりますのに」
ふぅと落とす溜息と同時に、ソレは立ち上がった。
「仕方ありません。私が行って激励の一つでも差上げましょう」
「……主任が解決するんじゃないんですね」
すかさず突っ込む眼鏡の女性に、ソレはほくそ笑んだ。
「私が行ったら、タローの為にはならないでしょう? 漫画担当者は、例え原稿の締め切りが迫っていようと漫画家の具体的な仕事は手伝わず、ただひたすら祈るのみなのです」
「要は、タロー君を苛めに行きたいだけなんですね」
「私の生き甲斐ですもの!」
死んでるけど。と、ソレはポソリと付け加える。
「それでは、善は急げ思い立ったが吉日、下界へ行って参りますわ」
「いってらっしゃい」
意気揚々と門を潜り出かける上司の後ろ姿を眺め、眼鏡の女性は微笑ましく見送った。
「……私の仕事が一つ減ったわね」
主任の相手は死人よりもめんどくさい。
それは天国・極楽庁内での暗黙のハードワークなのだ。