恋愛小説集

□先輩ちゃんと後輩くん♀
1ページ/7ページ







「先輩」



 背後から衣擦れの音。

 弓を構える私の後ろに彼が立つ。

 部活後の私の個人練習に付き合う後輩の君。



「何です、伊藤くん」



 私は彼へと振り向かず、弓を絞りずっと先の的を睨む。



「好きッス」



 一瞬、弦を掴む指先に感覚がなくなった。

 今、何と言ったのだろう。


 ――好き?


 私の事が?


 動揺しそうな気持を押さえ、私は弓と的に一生懸命集中する。

 その為に始めた弓道だし。



「そうですか」



 とりあえず何か言葉を返さなくてはと、私は頷く。

 その拍子に矢は放たれてしまった。

 突き刺さった矢は、的の中心を少しだけ逸れてしまう。

 私もまだまだ未熟だ。



「お付き合い願えませんか?」



 真剣な彼の声に、私は少し考える。


 彼の事は……勿論好き。


 可愛い後輩だし、どうしても人と壁を作りがちな私にも親しげに話しかけてくれる。


 その好きは……恋?


 友愛?


 考えて考えて、ようやく私は弓を下ろす。



「……いいですよ」



 考えて、私は彼、伊藤 慧くんは前者だと悟る。


 私は君が好き。


 私は君の側にいたいです。










『先輩ちゃんと後輩くん』














次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ