恋愛小説集
□桜夜風
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夜が好き。
闇が何でも隠すから……
でも、
あの時夜は
あたしの心の奥底で芽生えた感情まで隠してはくれなかった――……
『桜夜風』
日の暮れた放課後の校内はあたしの隠れ場だった。
親と折合いが悪い時、友達と喧嘩した時、進路に悩んだ時。決まってあたしは校内の中庭の桜の木下で涙を流す。
今日の涙の理由は、失恋と裏切り。
告白をする前に、相談相手になってくれた友達に出抜かれて先を越されてしまったのだ。
まぁ、あたしが間抜けだったと言われればそれまでだ。
それに、好きになった順序で恋人は決まらないし、馬鹿みたいに責めたってしょうがない。
ただ、明日その子と顔を合わせた時に惨めな顔をするのは余計に悔しいから、今、泣けるだけ泣いて、鋭気を養うのだ。
おはよう。え、失恋? 何それ。興味なくなったから譲ってあげたんだよ。
それくらい言えるように。
少しくらい嫌味な方が清々しい。
でも、今は、今日までは無理。まだあたしは泣く。
分かってる。別れの後はまた始まり。
恋だってまた始まる。
ただ、放課後の学校の中庭で啜り泣く女生徒。
怪談ちっくなこの空気に何故か少し酔いながら、あたしは一人暗闇で泣いた。