恋愛小説集
□狼さんに気をつけて
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中学3年間歩き慣れた道。多少のよそ見なら問題なく進める筈だった。しかし、爪先に予想だにしない感触がムニュッと伝わる。
「ひゃっ!?」
「いってーっ!」
反射的に後退りながら叫んだあたしの声と同時に響く別の声。
一瞬、訳が分からなかった。
確かに男の子の声が聞こえたんだけど、目の前には誰もいない。空耳? でも人間はいないが視線を落とすとそこには何か黒い影。
丁度そこは神社の前。その神社の鳥居の影に隠れた体から尻尾を道に伸ばして身を潜めている。
犬だ。
何犬だろう。雑種? まだ子犬っぽい顔付きだけど、中型犬くらいの大きさだ。将来おっきくなりそうだなぁ。
「あ、もしかしてあたし、君の尻尾踏んじゃったのかな」
勿論、わんコが質問に返す筈がない。これはうちで動物を飼う人の性だろう。ついつい話しかけてしまうのだ。
「痛かった? ごめんね。首輪は…………してないねぇ」
逃げないわんコを撫でながら首に触れ、必要な物がない事に唸る。
このまま放っておいて保健所に連れてかれるのも忍びない。しかもこの子、
「男の子か」
地べた近くに屈んでお座りするわんコの股座を覗くと、確かな性別を証明するソレがあるんだけど――……。
「ばっ! ちょ、おま、いい加減にしろよなっ」
「ひゃあっ」
耳元に響いた怒鳴り声に驚いてあたしは尻餅つく。
何……!? 何なの今の!
目を白黒させてあたしは目の前で4本足でしっかり立つわんコを見た。
肩で呼吸し、仁王立ちであたしを睨むわんコ。
今度は確かに聞いた、見た。
最初の声も空耳ではない。このわんコが喋ったんだ。
人の言葉を――……。
「嘘……」
こんな事ってあるのだろうか。