anniversary

□海と涙
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 ウロは必死になって泳いでいた。

 暗く冷たい海で泳いでいる。

 手で水を掻く、そして体の違和感を感じて振り返ると足はなかった。変わりに水の中を時折光る鱗をつけたヒレが生えていた。

 それはさながら人魚の形状。

 突然変わってしまった肉体に驚きながら、ウロはそれでも泳いだ。泳ぎ続けた。


 怖い。


 何が怖いのか分からないけど、とてつもない不安に襲われて飲み込まれそうな気がした。

 怖くて、不安で寂しい。悲しい。

 必死で陸まで泳ぐ。泳いで泳ぎ疲れてもまだ泳いで。

 やっと陸が見えて来た。

 真っ暗な海に反して、白くぼんやりと浮かび上がる砂浜。ウロは安堵感から涙を浮かべる。

 何故ならそこにはウロの不安を掬い上げる人がいるのだから。

 広大な海を一人漂うウロを救い出してくれる人。

 ウロはその人を目指して泳ぐ。

 そして、陸まであと少しの時、ウロは嬉しさのあまりからその人の名前を懸命に叫んだ。


『尊穏っ――』


 目を開けば、そこも暗い闇。

 否、目が闇に慣れてないだけで、少し経てば外からの僅かな明りで部屋をぼんやりと見渡せるぐらいの仄暗さはある。

 ウロは寝汗で腕に張り付いた長い髪を払い、深く息を吐いた。酷い頭痛に額を支えれば、掌に僅かに湿ったものが触れる。

 涙だった。寝ながら流したものだろう。


「……夢、か」


 現実を確かめるように、今を確認するように呟く。


 どうして今更こんな夢を見るのだろう。


 半身を起こしたウロは、そのまま隣りを見る。同じベッド。二人分の頭が乗せられる大きめの枕を半分沈めて、寝息を立てるその人を見つめた。


「鉄」


 名前を囁く。呼ばれた鉄は呼応するように小さく唸るような返事。寝ぼけていてもウロの声に反応する所が彼らしい。

 ウロは起きている時よりあどけなく見える寝顔を見つめ、薄く微笑む。

 愛しい気持を再認識する。


 そうだ、こんなにも愛しいのに……


「すまなかった」


 チクリと罪悪感が胸を刺し、ウロは謝罪の言葉を零して鉄の胸に顔を埋める。


 今度はあんな悲しい夢を見ないように――……



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