anniversary
□海と涙
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* * *
天気の悪い日は、決まって鉄とウロの朝は遅かった。
明方から雨が降ろうものなら、二人の日課である早朝の散歩がなくなるのが理由だ。
この日は朝から細かい霧のような雨。例に違わず、散歩がない分朝の時間をのんびりと過ごす。
「それじゃ俺、行ってくるけど、夕飯はデリバリしたりしろよ? 昼の分は冷蔵庫の中に作り置き置いてあるから、それ温めて食え。後は戸締り忘れるな。それから――」
「いいから、分かったから! 小姑かお前は。子供じゃないんだから留守番くらい出来る。いい加減さっさと行け。遅刻する気か」
しっしっと追払う仕草でウロは鞄を肩にかける鉄を睨む。
「じゃあ、今夜はバイトで遅くなるけど、俺がいない間に何か困った事があれば寿喜でも呼んでこき使え。いいな!?」
「はいはい! だから早く行けっ」
ウロに叱咤され、鉄は渋々重い足取りで玄関の扉を開ける。
「――行ってくる」
「いってらっしゃい」
ようやく外へと出た鉄を送り出し、ウロはやれやれと肩を竦めた。
今日はバイト先の都合で帰りが明け方近くになるのだ。月に何度もある事なのだが、鉄は飽きもせずに今のようなやり取りを毎回繰り返す。家事があまり得意でないウロを、一人残して出掛ける事が気にかかるらしい。が、今日は普段より輪をかけて口煩かった。
「あいつ、過保護に拍車がかかってないか?」
一人ゴチてウロは首を傾げる。
「いや、初めからあいつはああだったな」
過去を振り返り、頷く。
始めて出会った時も、鉄はそんな気があった。
過保護とは言わないけれど、初対面の素性知れない人間を拾い、あまつ家に招くお人好しさ。その部分が付き合う事でより色濃く見えるのだろう。
「今夜は一人……か」
こてんとソファに頭を沈め、何処とはなしに虚空を見つめる。
鉄と暮らし始めて四年。
一人で過ごす夜は初めてではないのに、心細かった。
更に鉄と出会って、付き合い始めてから数えるならもう六年が経つ。それなのに、漠然とした不安がウロの心を絡め取って離れないのだ。それはきっと、最近続けて見る夢の所為なのだろう。
「尊穏の夢なんて、此処何年も見ていなかったのに……」
決して忘れた訳ではなかった。
初めて好きになった人を、ましてやあんな別れ方をした人を忘れられる訳がない。ただ、当時のように鮮明な悲しみがないだけ。
「私が他の男と幸せになるのは駄目か……?」
誰とはなしに問い掛ける。勿論、返事はない。
そして、ウロは突然かぶりを振り出す。
すぐに思い直したのだ。尊穏はウロが幸せになるのを嫌がるような人ではないと。
死んだ、一人の男の為に操立てする事を本気で望みは知らないだろう。ウロが知る尊穏はそんな人だった。だから、もしウロが尊穏の夢を見るとしたら理由は一つしかなかった。
ウロの方が尊穏から離れられない事。