anniversary

□不思議の国の雛菊
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 あまりの素早さに暫しポカンと口を開けて、小さくなる兎の後ろ姿を眺めていた雛菊はハッと我に返ります。


「そうだ! せっかくのプリンの感想聞かなきゃっ」


 え、そっちなの!?


 何処かずれた雛菊さんは、泥棒兎に味の評価を聞く為に後を追って走ります。


「待ってよコスプレ少年〜」


「コスプレじゃないよっ」


 追われると余計逃げたくなるのが生き物の性。背中から呼ぶ雛菊の呼掛けについついツッコミながらも、少年は草葉に隠れていた穴に勢いよくダイブを決め込みます。


「嘘! 穴とか卑怯っ」


 小さくて土臭い、底の見えない穴の前で雛菊は少しだけ躊躇します。でも、此処で引き返すのも何か癪。

 意を決し、勇気一つ共にして、安産型のお尻が少しだけ穴につっかかりながらもやや遅れて雛菊も穴の中へとダイブです。


「(コスプレだけど)兎を追って穴に落ちるって、まるでアリスみたい」


 穴を下りながら呟く雛菊。
 つーか、アリスパロなんだって。この娘は話の趣旨が分かっているのやら。

 そんな作者の嘆きも伝わらず、無事穴底へ辿り着いた雛菊さん。回りをキョロキョロ見回すと、そこはとても地下とは思えない、装飾で加工された一本道の廊下でした。


「おぅ、It'sアンダーグラウンド」


 不思議な国にまるで物怖じしない図太い肝っ玉なお嬢さんは、取り敢えず目的の兎少年を追いながら長い一本道を歩きます。

 そして着いた先は行止まり。しかしそこには犬の頭三つの着ぐるみを被ったスーツ姿の(多分)青年が立っていました。


「………………」


「いらっしゃいませ〜。俺はドアの番人。ドアマンことケルベロスタロー君だよ。こーんにーちわ〜」


 まるで教育番組の歌のお兄さんが如く爽やかに挨拶をする、ドアマンのケルベロスタローに雛菊もぺこりとお辞儀。

 しかし、ケルベロスと言うには無理がある頭三つ着ぐるみを前に流石の雛菊さんもリアクションに困ります。


「頭、重くない?」


「うん、実はね。ちょっとバランス崩すと頭から倒れちゃうんだよ」


 若干よたよたとふらつきながら、懸命に立つ番人が少し気の毒に思いながら雛菊はさっさとこの場を通り抜けた方が彼の為だと思いました。


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