anniversary

□猫と魔術師
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「…さて、どうしたものやら」

傍らですやすやと眠る子供を見下ろして、あたしは途方に暮れていた。






―――昨日、久しぶりに街まで出掛けたあたしは、帰り道、森の中で傷付いた仔猫を拾った(はずだった)。


ミュウミュウというか細い声に導かれて、道を逸れて茂みの中に分け入ると、そこには不思議な光沢のあるグレーと黒の縞模様の仔猫が、力なく横たわっていた。

何かに襲われたのか、右の前足には鋭い爪痕のような傷があり、赤く血に染まっている。

あたしが近付いても、仔猫は威嚇する元気もないのか、ぐったりと身を伏せたままだ。

「うわっ、こりゃヤバい!」

あたしはあわてて買ってきたばかりの胴着を引っ張り出すと、そっと仔猫を包んで家路を急いだ。


すぐに手当てをして、流血によって失われた体温と体力を取り戻すべく、ほんの少しだけ魔法を使った。

傷を完治させてしまえば自然の理に反することになるし、第一こんな小さな生き物にあたしの暴力のような制御のきかない魔法をぶつけてしまったら、いったいどうなることか…。

まあ、おまじない程度ならさほど影響ないだろうと判断して、言葉を紡ぐ。

『ちちんぷいぷい。痛いの痛いの、飛んでけ〜』

すると、ふうわりと不可視の力が一瞬仔猫を包み、すぐにするんと吸収されるように仔猫の中に消えていった。
仔猫は目は閉じたままだったものの、浅く速かった呼吸が治まり、多少毛艶もよくなって、抱き上げると湯タンポのようにほこほこしていた。

「よしよし、上手くいったかな」

あたしはそのまま寝室へ向かうと、仔猫を潰さないように気を付けながら、一緒に眠りについた。


 
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