anniversary

□猫と魔術師
2ページ/11ページ

 
…そのはずだったんだけど…。

朝目覚めると、ベッドの傍らにはふわふわの毛皮は何処へやら、あどけない寝顔の幼児がいたのだった。

「…ん〜、獣人族だったのか」

どおりで少し毛色の変わった猫だと思った。

姿はほぼ人間の男の子と変わりない。ただ違うとすれば耳が顔の横ではなく、猫の耳そのままに、ぴょこっと半ば髪に隠れるように上部についていた。

ピクピクと動くそれが妙に愛らしくて、あたしはついさわさわと撫でてしまった。

「…んにゅ〜…」

「あ、起きた」

軽く伸びをして、目をしぱしぱと瞬いた仔猫、もとい子供は、状況がよくつかめてないのか、目の前にいるあたしをしばし凝視する。

あ、この子の目、トパーズじゃなくてペリドットなんだ。

そして、あたしが知らない相手だとわかったのか、子供は突然飛び起きると、キョロキョロと辺りを見回した。

「…ぅにゃあっ、クロエ?クロエ、どこ〜?」

舌足らずな口調で、知人(親?兄弟?)の名前を呼ぶ。

「ここにはいないよ。ここはあたしの家だから」

「みゅ?…だぁれ?」

今にも泣きそうな顔で小首を傾げる子供に、あたしはとりあえず安心させるようにニッコリ微笑んだ。

「あたしはアオイ。君の名前は?」

「…まちゅ」

「まちゅ?ああ、マツね?昨日、怪我して茂みに隠れてたの、覚えてる?」

右腕の包帯を指差すと、マツは少し考えるような素振りを見せたあと、こくりとうなずいた。

「あのまま放っておいたら大変なことになるから、家に連れてきたんだけど…、あそこに隠れるまでは誰かと一緒だったの?」

「クロエがいた」

「そっか。じゃあ、怪我してはぐれちゃったんだね」

「ふぇ…、クロエ〜」

マツは途端に寂しくなったのか、顔をくしゃっと歪めてベソをかきだした。

「あ〜、はいはい。わかったから、泣かない泣かない」

あたしはマツを胸に抱き寄せて、あやすようにポンポンと背中を叩いた。


獣人族の子供は、狙われやすいと聞く。
その肝が万能の妙薬と噂され、闇で高値で取り引きされるのだ。

この近くに獣人族の集落はないから、おそらく移動中に何者かに襲われて、争いのどさくさではぐれてしまったんだろう。

小さな子だけで動くことはまずあり得ないし、保護者が一緒だったなら、きっと今頃血眼になって探してるはず。
猫科の獣人族は戦闘のプロというし、そう簡単にはやられないはずだから、ここにたどり着くのは時間の問題かな。

あ〜、でも、面倒なことになったなぁ。

世間の煩わしさから逃れるために、わざわざこんな人里離れた森の中に住んでるというのに、向こうから厄介ごとが舞い込んでくるなんて。

あたしは腕の中でぐずる子供の頭を撫でてやりながら、つい大きな溜め息をついてしまうのだった。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ