短編小説集

□「おおきくアビスぶって」
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「電気、つけ…るよ」


手探りで壁にあるスイッチを捜し、突起があるのに気づくと躊躇いなく押した。



『――カチカチッ』


ニ、三秒かかって点滅が終わると、一気に明るくなる倉庫内。周りの景色がよく見えるようになると、初めて見つけることができた。
誰かが、倒れている。



「栄口、くん!」


間違いない、そう思った。
慌てて近寄ると、そこにはユニフォームを着た




「痛ってー。ったくなんだよ一体」


赤い髪の男が頭を摩っていた。



「栄口君、じゃな…い!」

「あ゙ぁ?」

「ひぃっ!ごめん、なさ、い!」


不機嫌そうにのそのそと起き上がる男。三橋は逃げることも言葉を発することも出来ず、頭の整理がつかないままただ突っ立っていた。

この人、誰だろう…



「おい」

「はっ、はいぃ!」

「どんな方法を使ったかは知らねぇけど、いい度胸してんな」

「……?」


赤毛の男は嘲笑を浮かべながら三橋を見下ろした。身長差がこれほどにもあると大きな劣等感を持ってしまう。気の弱い三橋なら尚更。



「此処どこだよ」

「西浦高校の、倉庫…です」

「はぁ!?何処だよそれ。何の目的で俺を拉致した」

「拉致なんて、してま、せん」

「ふざけんなっ!」

「ひえぇぁっ!」


わけがわからないまま一方的にキレる赤毛。今にも涙が溢れ出しそうな三橋の胸倉を掴み、罵声を浴びせる。
三橋はそれを必死に振りほどこうとするも、自分の力では敵わない。



「仕返しか」

「はぃ…?」

「俺が憎いんだろ?」

「別に、憎く…あり、ません」


三橋の言葉に、肩を揺らせて急に笑い出す。どこがおかしいんだろうと疑問を浮かべていると、静まった男が顔をぐっと近づけた。
笑顔のまま話すものだと思っていた。



「だったらなんなんだよ!」

「ひいぃぃっ!」


男が蹴り飛ばした物が盛大な音をたてる。怒りに満ちたその表情は本能的に身の危険を感じさせるものだった。わけがわからない、どうして自分がこんな目にあってるのかわからない。ただ一つ言えることは、コワイ。


誰か、助、けて…!




「おーい三橋。集合かかって…」


願いが天へと届いたように、それはタイミングよく二人の耳へと届いた。





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