短編小説集

□「おおきくアビスぶって」
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「あ…れ?」

「水谷、くん!たすけ…て!」

「三橋、お前…え?えぇぇ?」


赤毛の男に捕まる三橋を指差して慌てふためく水谷文貴(通称クソレ)彼もまた状況を掴めそうになく、様々な疑問で頭は混乱していた。

この人だれ…?って何でうちのユニフォーム着てんの?三橋は何故か胸倉掴まれてるし、これってもしかしてカツアゲ!?助けてって言われても相手は大人で、俺ひとりが飛び掛かっても勝てるわけないし、かといって俺が逃げ出したら三橋はボコボコにやられて…どうすんだよ俺ー!?



「あの〜、どちら様で?」

「あ゙ぁ?」

「今から練習始まるんで、三橋離してもらえないっすかね?」


言ったぞ。おれ大人相手に言ったぞ!

少しの達成感を得ながら、小さくガッツポーズを決める水谷。だがそれは自身を苦しめるものでしかなかった。



「お前もコイツの仲間か?」

「はぁ…そうっすけど」

「こんな監獄に閉じ込めやがって、俺が何したって言うんだ!」


か、監獄!?
ちゃんと倉庫の扉開いてるんだけど、この人見えてないのか?それとも頭、少しおかしいのかな…



「何か勘違いしてます、よ?」

「何が勘違いだ!俺は悪くない、俺が殺したんじゃない!俺は何も知らなかったんだ!」

「いや、そんなこと俺に言われても…」


この人本当に頭どうかしてる…!



「このっ、出口を教えやがれ!」


赤毛は三橋を突き飛ばすと、水谷に向けて剣を引き抜いた。それは偽物と思わざるおえないほどの大きさで、本物の刃のように研ぎ澄まされていた。



「えっ、何コレ。どっきり?俺おどかされてんの!?」

「わ、わからな、い…けど、違う、と、思う…」

「あべー!もうフライ落としたりしないからどっきりだったら出てきてくれよー!」


今にも泣き出しそうになる水谷の叫びは倉庫内にしか響くことなく、そして誰もひょっこりと出てくる気配はない。






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