短編小説集
□「おおきくアビスぶって」
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「俺は、俺はっ…!」
頭を抱えながら、虚ろな瞳を揺らす男。震える両手で剣をがむしゃらに振り回す。
間一髪のところで避けた水谷だが、ほんの少しかすったユニフォームに切れ目が入ったのを見て、目を見開いた。
これ、本物ぽくね?
「水谷、くん!」
「だいじょうぶ大丈夫。第一、本物なわけない…」
もう一度振り回された剣。それが鼻をかすめると、ポタポタと何かが唇をつたって零れ落ちた。
もしかして、血ぃ…?
「待ってまって、これ本物だって!三橋ー助けてえぇぇーーーっ!」
「俺、おれ、どう…すれば!?」
逃げ回る水谷に、剣を振り回しながら追い掛ける赤毛。そしてきょどる三橋。
狭い倉庫内でこの光景、実に奇妙に見える。
「水谷君、誰か、呼んでくる、から…待ってて!」
悩んだあげく、三橋は決心を固めたようで、今までに聞いたことのない大声をはりあげた。そして、言うなり倉庫内から飛び出してしまった。
二人きりになって、どこかまた空気が変わった気がする。
「え。ちょ…」
み、みはしぃ!まさか、まさか俺をひとりにさせる気なの?俺だって怖かったけど、三橋を置き去りになんて出来なかったから助けも呼びに行かなかったんだぜ。
なのに
三橋……
それは無いだろおおおおおーっ!
「待って、待ってくれよ三橋!行かないでっ!」
呼び掛ける先にはもう、三橋はいない。
底知れぬ絶望感が、水谷を襲う5秒前。
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「うわあぁぁぁーーっ!誰かぁぁあ!」」
三橋の後を追うように、水谷は倉庫内から飛び出した。
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