小説【咎狗】

□犬物語
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夢を見た。

どうしてこんなことになったのか、何故自分がダンボールの中にいるのかよく思い出せない。

でも、このままでいたら寒さで死んでしまうのは明らかで…


『まだ死にたくない、誰か助けて』


弱った体で必死に叫んだ。

でも、救いの手はいつまで経っても来なくて…あぁもうダメだと諦めてかけていたとき。


「ここか?」


暗い空間の外に…とても暖かな優しい光を見た。


*******


コトコトッ…



凄く良い匂いがする…。
夢と現実の間で未だにフワフワしてる意識がその匂いによって徐々に目覚める。

「起きたか?」
夢の中で聞いた優しい声がまたして、とっさに跳ね起きた。
声がする方を見るとふんわりとした表情を浮かべる男がお皿を差し出してきた。

「ほらっ、お腹空いてるだろ。牛乳温めたから飲めるか?」

この人が俺を助けてくれたのかな…


キュルキュっ〜


と、思考はそのお腹の音に寄って遮られてた。

「ははっ、遠慮せずに飲んでいいんだぞ?」
ほらっ、と再度差し出された牛乳。

その優しく差し伸べられた手は慈愛に溢れていて、素直に甘えようと思った。

『ワンっ!!』

ありがとう。俺を助けてくれて。


ピチャピチャ――

「そんなにガッツいて食べるなんて本当に腹が減ってたんだな。何日間食べてなかったんだ?」

『ワンっ!ワン!』

フサフサとした頭を撫でながら、ふっと呟いた言葉に反応するように犬が食べるのを止めて、こちらを見上げてきた。

「お前、俺の言ってること分かるのか?頭がいいんだな」

そう言いながら頭を再び撫でてやったら、ふさふさと尻尾を振りながら気持ち良さそうに手にすり寄ってきた。

「…(可愛い)」

普段あまり動物に興味が無かったが今回ばかりは、その可愛さに魅了されたようだ。


――ワシャワシャ――コンッ――


「んっ?」

そうして撫でていると、首輪に付いてたドッグタグに気が付いた。

「元の飼い主が付けてくれたものか?KEISU…ケイスケ?」

『ワン!』

どうやら間違え無さそうだ。
「そうかケイスケっていうのか…名前まで付けてくれたのにお前、捨てれてしまったのか…可哀想に…」

例えどんな事情があったにしろ、こんなにまだ小さくて弱いペットを捨てるなんて信じられない。

こいつには何の罪もないのに…

『クーン?』

体に触れられていた手が急に止まったことを不思議に思ったのか、ケイスケが心配そうな目でこちらを見つめきた。

「あぁ、ごめんな。ちょっと考え事してたから…大丈夫だよ、お前を捨てようとか、そういうことを考えていた訳じゃないから」

難しい顔していたアキラを不安そうにケイスケは見上げたままだった。

しかし、その言葉に安堵したのかケイスケは自分に触れられたままのアキラの手を舐め始めた。

「うわっ!止めろって。くすぐったいだろ?」

ペロペロッ…

「っ…ん、もう駄目だ!!たく、お前は甘えたがり屋なのか?」

あまりの擽ったさに耐え切れず目の前のケイスケを抱えあげた。

『ワワンッ!!』
「そんな会話に相槌打つように吠えなくともいい」

さてと、飼う決意は固まったとして色々と準備をしなくては。ペットフードや犬用トイレにブラシに…あと何がいるだろう。

あっ、でも準備をする前にこれだけは言わなくては。

「いいかケイスケ、このアパートは基本的にはペット禁止だ。だからお前を飼っていることがばれるとまずいことになる。わかるな?」

『ビクっ!!』

その言葉に怯えたのかケイスケは急にシュンとなってしまう。

「本当にお前は犬なのに分かりやすい性格をしてるな。さっきも言ったろ?捨てたりはしない。一度拾ったからには最後まで面倒見てやる。だからお前も一緒に住むために協力してくれよ」

『ワンワンワンっ!!!』

「はいはい、嬉しいのは分かったから手の中で、はしゃぐな。あとあまり大声で吠えるな。隣に聞こるだろ」

『ワン…ッ』

ケイスケはアキラの言葉を理解したかのように先程より小さな声で吠えると共に小さく尻尾を振った。

「よろしい。…これからよろしくなケイスケ」


-チュッ-

これから一緒に住む住人に挨拶代わりにと、ケイスケの口にキスをする。

…って、なんで顔が赤くなっているんだコイツ?
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