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□お願い
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1月1日。

普段なら絶対にこの日は家を出ないのだが。

「うわぁ…人多いな。」

「正月なんだから当たり前でしょ」

ディーノに無理矢理つれてこられた……。

正直、ディーノと一緒にいるのは苦痛じゃない……けど。



……こんだけ群れが多いとムカついてくる。



「…帰らない?」

「は?恭弥?……具合でも悪いか?」

「そんなわけないでしょ。馬鹿じゃない?」

睨み付けてそういうと、ディーノは困ったような顔をする。

「せっかく正月なんだから正月らしいことしようと思ったんだけど……」

嫌だったか?

そう聞いてくる顔はなんだか少し悲しそうで。

「別に……一年に一度ぐらいは群れても、いいよ」

……その一言でディーノの顔は明るくなる。

僕は、ディーノの笑顔が好きだ。

僕にしか見せない色っぽい笑み。それがちょっと、いや、かなり格好よくて(そんなこと本人には絶対言わないけど)なんか恥ずかしくなっていつも目をそらしてしまう。

「恭弥?何赤くなってんの?……かわいいんだけど」

「な……、赤くなってなんかっ、」

否定はしたけど、多分まったく説得力はないだろう。

自分でも赤くなってるのが分かるぐらいだしね。

「ほら、神社……行くなら早く行くよ」

僕を見てニヤニヤ笑うディーノにムカついて、一発殴ってやった。

だけどディーノは気にもしない風に笑ったままで

「そうだな。寒いし、早めに終わらすか」

……さりげなく僕の手を握ってきた。


ムカつく。


僕に殴られて平然としてるディーノにも、


そんなやつに手を繋がれただけで、ドキドキしてる僕にも。


そして神社。

思った通り、参拝者でものすごい行列ができている。

「こんなに人いるのか?!」

「……正月の神社なんてこんなもんだよ。…だから、来たくなかったんだ」

僕がわざとため息をついてみせると。

「確かにこれは……並んでるだけで疲れそうだな」

そんなこと言いながら、二人で列の最後尾に並んで、かなり待って、やっと順番が回ってくる。

「なぁ恭弥……」

「何?」

「これ、どうすればいいんだ?」

ディーノはそう言いながら、前にある物を見て首をかしげている。

「……あなた、そんなことも知らずに朝、僕の家に乗り込んできたの?」

張り切って「恭弥!お参りに行くぞ!!」なんて言ってたのに?

半ば呆れながら、お参りの手順を教えてやる。

「お願い?……って何でもいいのか?」

「いいんじゃないの?」

「ふぅん」

そうして手順通りに参拝を済ませ、僕たちは帰路についた。

帰る場所は僕の家じゃなくて、ディーノの泊まっているホテル。

「ワォ、いつ見てもすごい部屋だね。」

無駄に広い部屋に、無駄に高そうな家具。

この部屋を見るたびにディーノがマフィアのボスだというのを実感する。

「?こんぐらいの部屋に慣れてるからなあ……」

ディーノがマフィアのボスなのは充分、分かっているし、それだけの強さもある。

ただ……そういう差がなんか…嫌だ。

何がかは分からない…けど……。


「……や。……恭弥!」

「……どうしたの?」

「どうしたの?じゃねぇだろ!いきなり黙り込むな」

「………」

「恭弥」

相変わらず思考を巡らせていると、いきなり唇を掠め取られた。

「……っ…」

「恭弥………」

名前を呼ばれながら、深いキスを角度を変えて何度もされると、頭がボーッとしてきて何も考えられなくなる。

口からはどちらのものか分からない唾液が落ちていく。

「ふ……っ、ディ…ノ……んン……も少し…いき、苦し…」

かろうじて、息苦しい事をディーノに伝えると、ディーノはやっと僕を解放した。

……まぁ、抱き締められたままだけどね。

「そういえば恭弥。さっきのお参りで、何お願いした?」

「……何で?」

「いーから、何お願いした?」

……何でそんなこと、ディーノに言わなきゃならないのか分からないし、言えるわけない。

「お願いって、人に言ったら無効になるんだよ。」

適当なこと言ったらディーノは

「……そうなのか?じゃあ仕方ないな。」

信じた。

本当に単純だね。

ま、信じなくても教えないけど。

「何笑ってんだ?」

「別に」

不思議そうな顔で覗き込んでくるディーノに背伸びして軽いキスをすれば、案の定、驚いた顔に変わり固まっている。

「……な、きょっ、恭弥?!」

"お願い"を教えられないかわり。

このぐらいならしてあげてもいいかな。



今年もディーノとずっと一緒にいられますように。



それが、僕のたったひとつの"お願い"。


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