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□何もかも奪うつもりか
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それは突然のカミングアウトだった。

「君の全てが欲しいんだ」

独り言のように呟かれたNの言葉に、ぼくは耳を疑った。

狂気じみた言葉を、信じたくなかったのかもしれない。

どう返すのが正解か。

彼のことだ。

冗談、というわけではないのだろう。

全く……メンドーだな。

ぼくがそう思ったのと、キスをされたのはほぼ同時。

不意打ちにももう慣れた。

それから逃れる術は、まだ、わからないけれど。

「チェレン、」

すがるような声の理由がわからない。

もともと他人の気持ちを知るのは得意ではないのだ。

それが、複雑怪奇な思考を持つNが相手となれば、ぼくには彼の考えなんか、わかるはずがない。

「他のものを、見ないで欲しい。そんな事ばかりを、ボクは考えている」

抱きしめた腕が、ぼくを締め付けるのが、少しだけ苦しい。

おかしいのかなぁ、ぽつりと漏らされた声に、思わず吹き出した。

今更、だ。

「君がおかしいのなんて、今に始まったことじゃないだろ?」

「……そういう言い方、傷つくなぁ。これでも普通になろうと頑張っているつもりなんだけど」

「そうなの?だったら、何の役にもたっていないね」

笑ってそう言えば、Nは不満気な顔でぼくを見下ろした。

「怒った?」

「うん」

「Nは、うそつきだね」

ホントはぜんぜん、怒ってなんかいないくせに。

そのくらいは、顔を見ればぼくでも分かる。

「うそ、だけどね。少しくらい騙されてくれてもいいじゃない」

「嫌だね、」

「我儘」

唇を尖らせたNは、何だか少し幼く見えた。

最初の頃は、あんまり表情がないなあ、なんて思っていたけれど(他人の事、言えた義理ではないが)、付き合ってみれば意外にも、表情がころころ変わるものだから驚いた。

新しい顔を見つける度に、不覚にもときめいてしまったり。

降りてくる唇の意味を、知りたいと思った。

キスの意味が未だに分からない。

唇を合わせて、そうして。

「ふ、ん」

鼻から抜けるような声が、漏れ出る。

舌を絡ませ合うキスの気持ち悪さは、慣れと一緒に忘れて行った。

この行為に意味を見出せないまま、それでも求めてしまうのは何故なのだろう。

きっと、答えはいつになっても見つからない。

酸素を交換しているうちにそれは二酸化炭素へと変化して、息苦しくなってくる。

息を吸い取られて、そのうち死んでしまうんじゃないか。

クラクラする頭の片隅でぼんやりとそう思った。

……ああ、でも、それもいいかな。

そう考えるぼくには、きっと何も残ってはいなかった。











2011*04*10




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