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□痛くなんてないよ
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すうっと意識が遠のいた。

初めてではない感覚に、あ、まずい。悠長にそんな事を考えていれば、そこで視界は真っ暗に。



見慣れた天井に、ふうと息を吐く。

あーあ、またやっちゃった。

忙しさを理由にした不摂生が祟って貧血を起こすのはもうこれで何回目か。

気をつけようと思っていても、大丈夫だという油断がどうしても抜けない。

周りを見回せば、人はいなかったけれど近くのテーブルにカップが置いてあった。

誰かが、いたのだろう。

執務室で倒れたのだから、多分、シンか誰かだろう。

そう思ってもう一度布団に寝転がり直す。

しばらく寝たおかげか頭はすっきりしていたけれど、どうもまだ身体が重かった。

ぼんやりと瞼を下ろして、眠くもなかったからただ真っ暗な視界に身を委ねて暫く。

ドアが空く音と足音に、誰かが来たことを知る。

なんとなく瞼を上げる気にならなくてそのままにしていると、足音は近くで止まった。

多分、ベッドのすぐ脇だろうなあ。

誰だろう。その疑問はすぐに解消されることになった。

僕を起こさないようにだろう。

そうっと、額に乗せられた掌の感触は、僕が間違えるはずもない、感じ慣れたそれ。

「アス、ラン……?」

なんでここに?驚いて目を開けば、これまた少し驚いたようなアスランの顔が目の前だった。

その表情はすぐに柔らかいものに変わる。

「おはよう、キラ」

綺麗な微笑みと共にそう言われて、どきりと心臓が音を立てた。

見慣れているとはいえ、やっぱりこの顔は、心臓に悪い。

久々だから尚更。

「おはよう……ていうか、なんでここにいるの?」

アスランも仕事だったはず。

休みだって連絡があったわけでもないし、ここにいるはずがないのだが。

僕の問い掛けに、アスランはひとつ苦笑を漏らすと僕の髪を撫でた。

それから、ゆっくりと口を開く。

「シンから、キラが倒れたって聞いて」

「うん」

「いてもたってもいられなくて」

「僕がこうなるの、初めてじゃないんだから。そんなに心配しなくてもいいのに」

「それは、わかってるんだけどな。やっぱり気になるだろ?」

眉を下げてそう言うアスランに、心配をかけていたのだと分かった。

つきん、胸の奥が締め付けられる様に痛む。

思わず眉を顰めると、アスランが不安気に僕を覗き込んで来た。

「?キラ、何処か倒れる時に打ったとか……」

「んーん、大丈夫、ごめんね」

自分で言っておいて、そのごめんね、が何に対するものなのか、わからなかった。

心配かけて、仕事の邪魔をして、自分の管理も出来ないで。

どれか、というより、きっと全部をひっくるめての、ごめん。

僕が謝ると、アスランは乾いた笑みを漏らした。

今日のアスラン、ずうっとこんな顔ばっか。

仕方ないかも、しれないけどさ。

アスランの苦し気な顔を見ると、どうしたって胸が痛むのだ。

「あーすらん」

「ん?」

「好きだよ」

「へ、」

ぽかん、そんな擬態語が聞こえそうなほど。

アスランは間の抜けた顔をした後、ぶわっと顔を真っ赤にした。

「なっ、き、キラ⁈どうしたんだ⁈やっぱり頭打ったんじゃ、」

面白いくらいに慌てて、僕の頭に手を載せながらそう言うアスランに吹き出す。

「全然、どこも痛くないってば」

「、そう、ならいいんだけど……」

「ほんとアスランて、心配性。……ていうかさ、僕が好きって言ったくらいでその反応はちょっと傷つく」

「う、ご……ごめん」

しょぼんとまるで犬が尻尾を垂らすみたいにうなだれるアスラン。

ちょっと可愛い、だなんて思いながらそんな謝らないでよ、そう返す。

「明日は?」

「ん?」

「仕事。ある予定だったでしょ?」

「あぁ、キラがまだ復帰できなさそうだったら休むって言ってあるけど」

この調子なら平気そうだな、そう続けるアスランの服を掴んだ。

それからうー、と辛そうな声をあげてみる。

「……キラ?」

なにしてんの、と。

訝しげに問いかけて来るアスランを見上げて言葉を紡ぐ。

「まだ、ダメそう」

アスランは一瞬ポカンとしたけど、すぐ僕の意図を理解したようで、吹き出した。

「全く、キラは」

くくく、と肩を震わせながらアスラン。

呆れているようでもあるけど、何処か嬉しそうなのは、きっと気のせいじゃない。

「だって、アスラン、そう言わないと帰っちゃうでしょ?」

「そうだな」

「ほんとは僕ともっといたいくせに」

「……あぁ」

仕事ももちろん大切だけど、やっぱりこうしてアスランと話す時間ないのは、辛いなあ。

そう思うと、倒れたのも悪くないかも。

それを声に出してみれば、今度は怒られてしまったけど。





















2011*05*09




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