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□必要なのは貴方だけ
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様子が違ったのは、最初から。
俺が日本に来て、恭弥のもとへ訪れても、悪いときは殴りかかってきて、いいときだって返事だけ、それが通常の反応だった。
しかし、今日に限って、屋上で昼寝をしていた恭弥に声をかければ、何故だか抱きついてきたのである。
最初、殴られると思って身構えしたのだが、どうやらそうではないらしかった。
そしてそう時間の経たないうちに、恭弥の身体が震えてるのに気付いた。
「……どうしたんだ?」
戸惑いつつもそう問いかければ、ただ、腕の力が強まっただけで何も返って来なかった。
「……恭弥」
困りながらも、なだめるように名前を呼ぶ。
それを繰り返せば、少しだけ恭弥は落ち着いたようだった。
「なぁ……どうしたんだ、言ってくれねぇとわからない」
出来るだけ優しく頭を撫でながら、もう一度問いかければ、恭弥がこくりと息を飲むのがわかった。
「……夢を、見たんだ」
消え入りそうな声で恭弥は言った。
「貴方が……死んでしまう、夢を」
「……へ」
思わず、呆けたような声を出してしまう。
まさか、ここで俺が出てくるとは思わなかった。
「僕は、ただ見てることしかできなかったんだ。それが、悔しかった。それに、貴方が死ぬのが、嫌だって、夢の中の僕は思ってた」
恭弥は思ったことを並べ立てるように言葉を紡いだ。
恐らく、自分でも整理することが出来ないのだろう。
俺は、なんて返せばいいかよくわからなかった。
でも、不謹慎なのを承知で言えることは。
「嬉しい」
何言ってるのとでも言いたげな表情でやっとあげた顔を見つめる。
うっすらと涙の痕が残っているのに、また笑みがこぼれた。
「恭弥は、俺が死ぬのを嫌だって思ってくれたんだろ?それ、すっげえ嬉しい」
そう言っていつものように笑えば、恭弥は戸惑いを浮かべつつも、少しずついつもの強気な顔に戻ってきた。
「……貴方ってさ、本当に、バカだよね」
くすりと笑いながら胸元に顔を埋める恭弥。
こうするのは、自分の顔を見られたくないとき。
つまり、恭弥は照れているってことだ。
「よく言われる」
「否定しないんだ」
「なぁ、恭弥」
呼び掛けつつ、顔をあげさせる。
視線が絡み合えば次の瞬間、どちらからともなく唇を重ねていた。
触れ合うだけのそれを終え、再び見た恭弥の顔には、さっきまでのような不安は見えなかった。
「俺が、そう簡単に死ぬと思うか?」
「どうだろうね、たまに貴方へなちょこだから」
「……そうだけど」
「でも、僕がいて、貴方がいて、どちらかが死ぬことなんてあり得ないね」
その言葉に、それもそうだなと頷いた。
俺も恭弥も、強い。
もう完全に元に戻ったのであろう恭弥は、するりと俺の腕を抜け出すと、伸びをしながら応接室へ戻っていった。
2010*12*02
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