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□大人の余裕が欲しいと思った
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ふわりと。

彼の手が、俺の髪を撫でる。

その感覚は、好きだ。

それなのに、胸は痛むばかりだった。

届かない、身長差が、年齢差が、心の広さの差が、悔しくて。

「塚原くん、」

名前を呼ばれて、目を瞑る。

俯いた顔は、静かにあげられた。

「ごめんね」

言いながら、唇に、淡い感覚。

いつも。

いつも、東先生はこうするときに、謝る。

結局、二人の間の教師と生徒という壁は、どうしたって取り払えなくて。

もどかしさに、彼に抱きついた。

どうしようもないと、分かっている。

分かっているのに。

「……晃一、さん」

彼は、驚いたように俺を見た。

それからくすりと、照れたように微笑んで。

「なに?要」

「、っ」

まさか、まさかそんな風に返してくるとは思わなくて、自分の顔が真っ赤になったのが分かる。

(うわ……恥ずかし)

ちょっと大人ぶったつもりだった。

けれどやはり、本当の大人には勝てなくて。


「……なんでも、ないです」


そんな言葉で誤魔化せば、先生はうんと一言洩らしてから、また俺の頭を撫でた。

子供扱いされているわけではないから、怒ることも、出来ない。

だから俺はただ、むず痒さを感じながら瞳を閉じて、その感覚を味わっていた。

……好きだと言ったのはほんの数回。

言われたのも多分、そんな感じ。

お互い心の何処かでいけないことなのだという意識がつき続けているのだろう。

最初から分かっていたことだから、それを辛いと感じたこともさほどない。

それでも。

もし、俺がもっと早くに生まれていたらとか、思わないこともないわけで。

「……塚原くん。俺は、君の先生でよかったと思うよ」

「……は?」

思わず顔をあげる。

そこにはいつもみたいににこやかな彼。

「今のままでも充分、幸せだな」

「……そう、ですね」

俺って、そんなに分かりやすい顔しているのだろうか。

俺の考えに応えるような先生の言葉に驚きつつも少しだけ、心が弛んだ。

「……すきです」

「ん、」

聞こえないぐらい小さな声で言ったつもりだった言葉もしっかりと拾われてしまう。

それから。

耳元で、俺も好きだよ、なんて言われてしまえば、恥ずかしさで自分がいたたまれなくなった。











2010*12*07


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