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□蕩けるような昼下がり
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想うだけで伝わればいいのにって、何度も思った。

そうすれば、どんなに離れていたって寂しくないのに。

どんなに離れていたって、彼の事が好きなんだって、伝わるのに。

アスランはね。きっと、僕がどんなにアスランのこと好きだか、分かっていないんだ。

そりゃあ、口に出せない僕も悪いけど、こういうときにも、以心伝心出来ればいいのにって考える。

「もういっそさ。ひとつで生まれてくればよかったのにね」

そんなことを考えている間に、アスランが部屋に入って来たから、口に出して言ってみた。

アスランはインスタントコーヒー二人分をテーブルに置いてから、ため息をついた。

「……また、急に何を」

僕はアスランが椅子に座るのを眺めながら、コーヒーに口を付けた。

口腔内に広がる、苦さ。

到底美味しいとは言えないそれに、アスランを睨み上げた。

「……砂糖」

「あぁ、はい」

アスランはポケットからスティックシュガーを取り出して僕の方へ放った。

それを入れながら、つい文句を言ってしまう。

「……僕がブラック飲めないの知ってるでしょ?」

「知ってるけど」

「じゃあ入れてから来てくれたっていいじゃないか」

「だって、面倒くさかったし」

アスランはあっさりとそう言ってのけた。

まぁ、僕のなんだからアスランがわざわざ糖分を調整する道理もないけどさぁ。

「やっぱり、以心伝心出来たらいいのに」

「何、それ、さっきのに繋がるの?」

「まぁね」

「ふぅん」

興味なさ気に相槌を打ちながらコーヒーを流し込むアスラン。

中身はおそらく糖分0だ。

特にアスランが口を開く様子はなかったから、僕はそのまま話を続けた。

「僕の想ってることがさ、アスランにも伝わればいいのにって、考えてたんだ、今」

「へぇ。何で」

「そうすればさ、離れてたって安心できるじゃない」

「俺が寂しくないようにってこと?」

「ううん……逆、かな。僕が不安にならないように」

僕は目の前にあったクッキーを一口食べた。

程よい甘さ。多分、ラクスが作ったものなのだろう。

「じゃあ、俺が考えてることがキラに伝わればいいのに、じゃないの?」

「それもそうだよ。だからお互いに、ってこと」

「なるほどね」

そこで一旦会話が途切れる。

クッキーを食べる音と、時計の音だけが聞こえた。

僕が三枚目のクッキーに手を伸ばした辺りで、アスランがポツリと呟いた。

「でも、それじゃあ相手の全部分かっちゃうじゃないか」

僕は首を傾げて、アスランに問い返す。

「嫌なの?」

「知らないことも少しはあった方がいいんじゃない?」

「僕に知られたらダメな疚しいことでも?」

冗談混じり、茶化すようにそう問うてみれば、アスランは微妙な顔をして小さく唸った。

僕はてっきり、すぐに否定されると思っていたものだから、酷く興味をそそられて、アスランを見た。

「へぇ、あるんだ」

「……いや、うん、まぁ……少し位は」

「意外だね」

「そんなことないだろ」

「アスランのことだから、僕のことしか考えてないかと思ってた」

そんなことないことぐらい分かっていたけれど、笑ってそう言えば、まぁそれはそうなんだけど、と肯定するアスランの声。

まさかの切り返しに僕は再びビックリして。

アスランの方は照れたように視線を外した。

「だから、キラの予想以上に俺はキラのこと考えてるよ」

「……あ、疚しいってそっちか」

「なんだと思ってたんだよ」

「たまに女の子に靡いたりとか、」

「はぁ?」

心外だ、という風に僕を見てくるアスランに、思わず笑みが溢れた。

冗談だよと笑って言うも、アスランはどうだか、と不機嫌そうに睨んでくる。

「冗談だって」

「嘘だな」

「まさかそんなに僕のこと考えてるとは思わなかったけど」

「……」

「お互い様だよ」

「は?」

「僕も、アスランのことばっか考えてる」

珍しく、少し恥ずかしいセリフを恥ずかし気もなく言えた。

アスランは一瞬呆けた顔をして、途端にテーブルに突っ伏した。

こつんと頭をぶつけたようで、それと同時にカップたちがかちゃりという音を立てる。

「……アスラン?」

「……馬鹿」

「何さ」

「恥ずかしいだろ」

何を言うかと思えば。

普段今の以上に恥ずかしいセリフを平然と言ってる人がどうして。

この分じゃあ、以心伝心なんかしたときには、アスランぶっ倒れちゃうかも知れない。

「相手のこと分かりすぎるのも考えものかな」

「……そうだよ」

アスランが顔を上げた。

僕はこっそりと近付いていて、顔は目の前。

アスランは驚いたようだったけど、すぐにいつもの微笑みを浮かべて、唇を合わせる。

仄かにコーヒーの薫りが香ってきて、なんだか不思議な気分になった。

ゆっくりと唇を離してから、アスランは微笑んでそれに、と続ける。

「このままだって十分だろ?」

……とか。

また恥ずかしいこと言ってるし。


(もしかしたら無自覚なのかもと、この時初めて考えた)














2011*01*30

 

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