メイン5

□ただ戯れ言のように
1ページ/1ページ



唇を重ねたり、手を繋いだり、そういう総ての行為は愛しい人とするものだと知っていた。

そして、私と南雲とのその行為の間に愛があるのかと訊かれれば、イエスとは言えないだろう。

ノーとも、言いがたいが。

始まりは些細な事だった。

若さゆえの過ち、とでも言おうか。

お互い只の興味本意で、口付けを交わした。

そうして一度境界を壊してしまえば、それ以上をするのに何の躊躇いもなかった。

しかし、それ自体が問題ではないのだ。

問題は、私が知らず知らずのうちに彼に好感を抱いていたこと。

ほんの戯れだと、割りきって仕舞えずにいること。

思えば、持ち掛けたのは私だった。

自分でも気付いてはいなかったが、つまりそういうことなのかもしれない。

「、涼野」

ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて私の唇を掠め取った南雲。

甘えるような仕草で、私に擦り寄ってくる。

普段なら、気色悪いと一瞥していただろうに、雰囲気とは不思議なもので、甘ったるい空間ではそれが嫌味に感じられない。

不思議と言えば、彼自体もそうなのだ。

何故、プライドの高い南雲がこのような行為を甘受けしているのかと。

疑問に思うも、訊けばこの関係が崩れてしまいそうで、口に出すことは憚られた。

「涼野、何考えてんだよ」

「、別に」

「ふーん。……まぁ、いいけど」

「そう」

お互い会話が何処かぎこちない。

じい、と南雲を見詰めれば、彼は気まずげに顔を反らした。

「……なんだよ」

「いや」

そう一言呟いて、今度は私から、彼にキスを落とす。

触れるだけのそれから、次第に激しいものに変わっていく。

「……ふ、」

時折漏れる、彼の喘ぎにも似た声は甘くて、私の脳髄を溶かしてゆくようだった。

じわりと、競り上がってくる欲望。

彼にぶつける事は容易だ。容易、なのだけれど。

小さく水音を立てながら、唇を離す。

仄かに濡れて、艶かしく光る彼の唇を拭って、身体を抱き寄せた。

「……涼野?」

「たまには、」

「、」

「こういうのもいいだろう?」

南雲が嫌がるなら、それでも構わなかった。

けれど、彼は一瞬の間をおいて(きっと躊躇いの、間)、私に体重を預けてきた。

……不意に、なんだかとても嬉しくなって。

思わず口許が緩んでしまう。

彼から顔が見えなくてよかった。

彼がどういう意図でこうしているかなんて分からないから、ぬか喜びのようなものだとも思うが、こればっかりは仕方ない。

もう暫くは、このままの関係でも良いと、そう思っていた。


(けれどいつかは、ね)














タイトルは星になった、涙屑様より

2011*01*31


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ