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□ただ戯れ言のように
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唇を重ねたり、手を繋いだり、そういう総ての行為は愛しい人とするものだと知っていた。
そして、私と南雲とのその行為の間に愛があるのかと訊かれれば、イエスとは言えないだろう。
ノーとも、言いがたいが。
始まりは些細な事だった。
若さゆえの過ち、とでも言おうか。
お互い只の興味本意で、口付けを交わした。
そうして一度境界を壊してしまえば、それ以上をするのに何の躊躇いもなかった。
しかし、それ自体が問題ではないのだ。
問題は、私が知らず知らずのうちに彼に好感を抱いていたこと。
ほんの戯れだと、割りきって仕舞えずにいること。
思えば、持ち掛けたのは私だった。
自分でも気付いてはいなかったが、つまりそういうことなのかもしれない。
「、涼野」
ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて私の唇を掠め取った南雲。
甘えるような仕草で、私に擦り寄ってくる。
普段なら、気色悪いと一瞥していただろうに、雰囲気とは不思議なもので、甘ったるい空間ではそれが嫌味に感じられない。
不思議と言えば、彼自体もそうなのだ。
何故、プライドの高い南雲がこのような行為を甘受けしているのかと。
疑問に思うも、訊けばこの関係が崩れてしまいそうで、口に出すことは憚られた。
「涼野、何考えてんだよ」
「、別に」
「ふーん。……まぁ、いいけど」
「そう」
お互い会話が何処かぎこちない。
じい、と南雲を見詰めれば、彼は気まずげに顔を反らした。
「……なんだよ」
「いや」
そう一言呟いて、今度は私から、彼にキスを落とす。
触れるだけのそれから、次第に激しいものに変わっていく。
「……ふ、」
時折漏れる、彼の喘ぎにも似た声は甘くて、私の脳髄を溶かしてゆくようだった。
じわりと、競り上がってくる欲望。
彼にぶつける事は容易だ。容易、なのだけれど。
小さく水音を立てながら、唇を離す。
仄かに濡れて、艶かしく光る彼の唇を拭って、身体を抱き寄せた。
「……涼野?」
「たまには、」
「、」
「こういうのもいいだろう?」
南雲が嫌がるなら、それでも構わなかった。
けれど、彼は一瞬の間をおいて(きっと躊躇いの、間)、私に体重を預けてきた。
……不意に、なんだかとても嬉しくなって。
思わず口許が緩んでしまう。
彼から顔が見えなくてよかった。
彼がどういう意図でこうしているかなんて分からないから、ぬか喜びのようなものだとも思うが、こればっかりは仕方ない。
もう暫くは、このままの関係でも良いと、そう思っていた。
(けれどいつかは、ね)
タイトルは星になった、涙屑様より
2011*01*31