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□それはまるで神聖な儀式のようで
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「風丸、勉強見てくれ!」

……と、耳を疑うようなセリフを聞いたのは昨日のこと。

あの円堂からまさか勉強なんて単語を聞く日が来るとは思わなかった。

槍でも降るんじゃないかなんて笑いつつ、もちろんその頼みは快く引き受けて。

テストを数日後に控えた土曜日、俺の家で勉強することに相成ったのである。

「で、どの教科から手つけようか」

残念なことに円堂には得意教科というものがない。

体育は得意なんだろうが、生憎中間テストに体育なんてあるはずもなく。

とりあえず円堂の希望を聞こうと思ったのだが、彼は難しい顔をして黙ったままだ。

「……円堂?」

「正直さぁ、」

「うん?」

「どれもやりたくない」

「……」

なんだそれ。あまりのことに言葉にすらならなかった。

そもそも話を持ち掛けてきたのは円堂だってのに、始める前からやりたくない、と。

ある意味らしくて安心したが、呆れもした。

「……とりあえず英語からやるぞ」

「……うぅ」

教科書を広げながらそう言えば、円堂は渋々ベッドの縁から降りて俺の隣に座った。

俺はもっと嫌がるもんだと思ってたから、驚いて円堂を見る。

「円堂……熱でもあるんじゃないのか?」

「あるわけないだろ」

「……そうか」

「なんだよ」

「いや、珍しいこともあるもんだなーって」

そう言えば円堂は、不満気に頬を膨らませた。

「別に好きでやってるんじゃねぇよ」

「そりゃあ、そうだろうけど……」

じゃあ何があったというのだろう。

先生にどんなに脅されたって勉強しなかった円堂が、少しとはいえやる気を出している。

俺にとったらこんな不思議なことはなかった。

そんな俺の様子に気付いたのだろう。

円堂は苦笑して、口を開いた。

「夏未にさぁ」

「え?」

「成績上げないとサッカー部辞めさせるって、言われた」

酷いよなぁだなんて溢す円堂に、俺も苦笑してしまう。

円堂には悪いけど、雷門がそうするのも仕方なんじゃないかな。

「そういうことなら、頑張らないとな。ほら、お前も教科書開けって」

「はいはい」



そうして英語をやりはじめて、数十分。

合間合間に一年の復習を挟みながら、テスト範囲の勉強をしていたのだが。

「あーっ!もう無理ーっ!!」

どうやら円堂に限界が訪れたらしく、そう叫んだかと思うとシャーペンを放り投げて床に寝転んだ。

「こんなに一気に覚えられるわけないっつーの!!」

「今までやってなかったんだから仕方ないだろ」

「そうだけどさぁ」

だって、だの、でも、だの、ぐちぐちと文句を言う円堂の口に、さっき出してきたお菓子を突っ込んだ。

「いいから黙ってやる!!」

「むぐ、んん……はぁ」

ごくりと菓子を飲み込むと、円堂は俺をじとりと睨み上げた。

「つまんない」

「はぁ?」

「……折角久し振りに風丸と二人きりだってのに」

「、」

いじけた風にそう言われ、心臓が大きく音を立てた、気がした。

確かに、最近は練習ばかりで、二人きりということはなかなかなかったかもしれない。

「でも。今日は、勉強しに来たんだろ?」

思わず火照ってしまった頬を隠すように顔を背けながら、そう言う。

「風丸」

円堂は何だか咎めるように名前を呼んで、俺の腕を掴んだ。

いつの間に起き上がっていたのか、そのまま身体ごと動かされる。

「な、えん、」

ぐい、と更に身体を引かれたかと思えば、抵抗する間もなく触れ合った唇。

驚きに目を閉じるのを忘れていると、円堂は少ししてから離れて、そそくさと机に向かい始めた。

「、円堂」

「……そんな顔されたら、我慢できなくなるだろ」

勉強、しに来たのに、なんて取って付けたように言った円堂は、微かに照れているようだった。

何故だかよく分からないけれど。

なんだか俺は嬉しくなって、笑みを溢すのを耐えられないまま彼の隣に座り直す。

「円堂、テスト終わったら、またうちに来いよ」

「……え」

「今度は勉強関係なしに、な」

そう言って悪戯に微笑んでみせれば、円堂も嬉しそうに頷いた。


(……あ、でも、成績上がったらって条件付きで)
(うわっ、ひでぇ……!!)













タイトルはM.I様より

2011*02*01



 

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