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□仕切り直しといきますか
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「……すまない」

注文を終え、席について暫くして、鬼道が申し訳なさそうに呟いた。

席は、向かいに円堂とフィディオで俺は鬼道と豪炎寺に挟まれている状態。

「……いや、鬼道は別に、」

答えながら視線はフィディオに向けてみるも、彼は円堂との会話に夢中なようで、こちらには一切向こうとしない。

元々、デートにはそんなに時間が取れないのだ。

だから、二人きりでいたいと思うし、向こうも当然そうなのだと思っていた。

けれど、今の彼は俺と話したい素振りも見せずに円堂と話し込んでいるものだから……不安になる。

お腹の底から沸いてくるような感情に耐えていると、今まで無言でハンバーガーを頬張ってた豪炎寺が、朧気に口を開いた。

「……風丸、手元見ろ」

「へ?あ、うわ」

無意識に苛立ちを放出してしまったらしく、俺は持っていたハンバーガーを強く押し潰していた。

食べるのにはなんの問題はないが、不格好になってしまったそれを見ると、なんだか虚しくなった。

それを見てまた、苛立ちがぶり返すも、今度は同じことをするわけにもいかず、代わりに大きく一口がぶりついた。

「……しかし」

そんな俺の様子を見ながら、豪炎寺がぽつりと呟く。

「円堂はともかく、フィディオは気付きそうなものだけどな」

「……」

考えないようにしていた事実を突かれ、思わず唇を噛んだ。

そうなのだ。普段なら多分、円堂に昼飯の誘いをされても、デート中なら断るはずで。

だからこそ、更に苛ついた。

今の彼の行動の真意が全く分からない。

「……別れたい、とか」

ふと思い浮かんだことを口に出してみると、想像以上のダメージだった。

思わず瞳が潤みそうになるのをなんとか堪え、気を紛らす為に食べる方に専念する。

隣の二人が気まずげに視線を交わしあったのが分かった。

「……まぁ、とりあえず二人で話すことが先決だろうな」

そう言って鬼道は立ち上がり、次いで豪炎寺も立ち上がる。

「……円堂」

「え、何、もう行くの?」

「あぁ。さっき二人で話していて行きたい場所が出来たからな」

「へぇ、じゃあ俺たちも」

「フィディオたちは、ポテトを食べ切ってくれ。勿体無いからな」

何故かまたも着いていこうとしたフィディオに、鬼道の牽制が入る。

ポテトを勿体無い、だなんて、普段の彼なら絶対言わないだろうけど、それは鬼道なりに考えた解決策らしかった。

それが面白いらしく、豪炎寺は後ろを向いて少し肩を震わせている。

まぁ、すぐに鬼道に殴られていたけれど。

遠回しとはいえきっぱりと一緒に行くことを拒否されたフィディオは、大人しくポテトを頬張り始める。

「じゃあ風丸、またあとでな」

「あぁ。……ありがとうな」

「いや」

そうして三人が立ち去ったあと、当然ながら二人きりになる。

そうなりたいと思っていたのは俺なのに、いざ二人になってしまえばなんとも言えない気持ち悪さが胸の中を占拠した。

もやもやした気分を極力外に出したくなくて、かといって彼とどんな会話をすればいいのかも分からなくなって、最終的には食べることしか出来なくなった。

そうして数分。

流石に沈黙に耐えかねたのか、フィディオが俺の名前を呼んだ。

「……なに」

そんなつもりはなかったのに、かなり不快感露な声になってしまった。

それを誤魔化す気にもならず、そのままフィディオの方を見る。

彼は、なんだか不機嫌そうな顔をしていた。

「何でお前がそんな顔するんだよ。怒りたいのはこっちだってのに」

「元はといえば風丸が悪いんだろ」

「はぁ?!」

身に覚えのないことを言われ、思わず声をあらげる。

すぐにここが店内だということを思いだし、咳払いして席に座り直した。

「風丸が、俺たちのことそんなに隠したいとは思わなかったよ」

「……は?別に俺は隠してなんて、」

「じゃあ何で手、振りほどいたのさ」

「手?……あぁ」

一瞬なんのことだか分からなかったけれど、さっきのあれ、なのだろう。

つまり、あのときフィディオがムッとした顔をしていたのは気のせいではなかったと。

「何でって、恥ずかしいからだろ」

「……それだけ?」

「……あぁ」

頷けば、妙な沈黙が間に落ちる。

フィディオは暫し何かを考えているようだったが、少しすると口を開いた。

「……ごめん」

そう言って頭を下げられ、一瞬びっくりした。

そうされたら怒るわけにも行かず……というか最早あまり怒ってもいなかったので、笑いながら首を振った。

「いや、いいよ。俺も悪かったみたいだし。……ていうかなんか、馬鹿馬鹿しくなってきたから」

「はは、俺も今少しそう思ってたとこ」

そう言ってどちらからともなく笑い合う。

原因がはっきりしてしまえばお互いの苛立ちなんてすっかり引いてしまっていた。

些細なことで感情昂らせて、バカみたいだなぁとすら思ってしまえるのだから、不思議だ。

いつの間にやらポテトを間食してしまっていた俺たちは、それを片付けると。

店を出る間際、どちらからともなく手を繋ぎ合った。














2011*02*03


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