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□真意も判らぬままに
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※DE真っ盛り
最初は、ただ、強くなりたかった。
それだけだった、筈なのに。
「風丸くん、どうしたんですか?」
びくりと、身体が震える。
ゆっくりと振り向けば、研崎様は底冷えするような瞳で俺を見ていた。
瞬間、全身の毛が逆立つのを感じる。
「調子、悪そうですね」
「、いえ」
つい反射的に否定の言葉を発してしまい、遅れて首を横に振る。
「あぁ、いや、いえじゃなくて、その」
なんと説明すれば良いものかと迷ってしどろもどろになる俺に、研崎様は数歩近付くと、手のひらを俺の額に当てた。
「、」
突然の事に驚いて息を飲む。
研崎様はそのまま少し首を傾げた。
「熱は無さそうですね」
まぁ、エイリア石を使っていますから、そうそう体調崩したりしないでしょうが、と付け加えて手のひらを離した。
離れた体温に、寂しさを感じる。
そんな気持ちを表に出すわけにはいかないので、俺は顔を見られないようにと、少し俯いた。
「体調不良でないのなら、何か考え事でもしていたのですか?」
ちらりとゴールの辺りに目をやりつつ、研崎様はそう言った。
ゴール周辺には、俺が外してしまったボールが無造作に散らばっている。
考え事、というか。
外しちゃ駄目だと考えすぎるあまり、力が入りすぎてしまったのだと思う。
「……すみません」
「いえ、一時的なものなら良いのですが。これが続くようなら」
「、」
「……風丸くん?」
その先を、自分が否定される言葉を聞きたくなくて、遮るように研崎様のシャツを引いた。
彼は不思議そうに俺を見るが、俺は何も答えなかった。
答える言葉が、見付からなかった。
(……嫌だ、)
不安だけが俺を煽り立てる。
研崎様に、嫌われたくない。捨てられたく、ない。
いつからかそういった感情が、強くなる理由になっていった。
自分の抱いている感情の名前を知ってはいたが、それを口に出すことはしなかった。
それを言ってしまうことで、彼に見放されてしまうのではないかという思いもあったから。
研崎様の指が、俺の唇に触れた。
どきりとして彼を見上げれば、目を細めて苦笑される。
「唇。血が滲んでいましたよ」
「、あ」
言われて、強く噛み締めていたことに初めて気付く。
どんな反応をするか迷っている間に、彼の指が唇をなぞったものだから、何も考えられなくなった。
「……折角綺麗なのに」
そうぽつりと言葉を落とされ、唖然としている間に、気付いたら研崎様の顔は目の前だった。
唇に、何かさっきとは違う感触。
「、」
「練習、頑張ってください」
す、と離れてから、いつも通りにそう言われ、ますます混乱した。
だって、今の。
(……キス、だよな)
どうしてそんなことをされたのか、理由を聞こうにも彼はもう扉の向こうで。
期待してはいけないと、頭の奥では分かっているようであったけど、それでも。
(沸き上がる嬉しさは抑え切れなかった)
2011*02*06