メイン5
□離せない手
1ページ/1ページ
※とてもパロ
※そして名前呼び
「一郎太」
「ん?なんだ、……じゃなくて、何でしょうか、セイン様」
あぁ、危ない。
またうっかりタメ口になってしまうところだった。
ギリギリのところで(微妙にアウトな気がしないでもないが)言い直して、ほっと息をつく。
頭では気を付けようと常々言い聞かせてはいるものの、やはり十数年してきた反応がそう簡単に直るわけもなく。
「別にそのままでもよいではないか」
セインはそう言うものの、実際、そう簡単にはいかないのだ。
周りの目というやつは、彼が考えている以上に、厳しい。
そもそも、今俺がここにいることだって本来ならば有り得ないのだ。
セインの家は、代々続く富豪で、俺の家も、それと並ぶ名家だった。
その繋がりで、俺とセインは小さい頃からの友人。
歳も近かったから、仲良くなるのに時間はかからなかった。
そして、俺の家が没落したのは、つい一ヶ月程前のこと。
ある事業にお父様が失敗し、家は破産。
なまじ高いところに居ただけに、落ちるのは早かった。
俺たちは追われるように家を出ていき、そして――。
「、っ」
「一郎太!?」
そこから先のことを思い出すと、頭が痛くなる。
思い出したくないということなのだろう。
――その後、俺たち家族は海に身を投げた。
皮肉なことに、俺だけは生き残ってしまったのだが。
「辛いのなら、忘れればいい」
「、」
「私が、守ってやるから」
「セイ、ン」
強く抱き締めそう言われ、次第に呼吸が落ち着いてくる。
甘えてはいけないと、そう思ってはいるけれど、セインの優しさにどうしたってすがってしまう。
「……すみません、」
数度深呼吸してから、やんわりと彼の胸板を押した。
うっかり見られてしまったら、どんな批難を受けるか分からない。
別に俺は何を言われようと構わないが、セインが悪く言われるのは嫌だった。
「一郎太、私は」
「いいんです。こうして側にいれるだけで、十分ですから」
何を言おうとしたのかは分からなかったが、何故だか聞いてはいけないと感じた。
被せるようにそう言えば、セインは不快そうに眉根を寄せてから、俺の手を引いて歩き出す。
振り払うことも出来ぬまま引き摺られるように歩いて行った。
バタン!と、普段では到底聞き得ない音が鼓膜を揺する。
セインの自室。
見慣れた広い部屋に荒々しく連れ込まれ、彼が後ろ手に鍵を閉めたのが見てとれた。
「これなら、別にいいだろう?」
「……え?」
「二人きりならば、今まで通りでも」
そう言って微笑まれ、俺は自分が傾くのを感じる。
そんなのは、甘えだ。
分かって、いるのに。
俺は今険しい顔をしているんだろう。
視線を落とせば、セインが小さく息を吐いた。
「私が寂しいんだ」
「……」
「一郎太が今まで通り接してくれないと、辛い」
「……俺だって。今まで通りでいたいよ。でも今は、俺は使用人で、」
自分を納得させるように、そう呟く。
本当なら、使用人でいることすら出来なかったのだから。
これ以上を求めるなんて、我儘にも程がある。
セインの手が、首元から俺の髪に触れた。
「文句があるやつには、言わせておけばいい」
「、」
そう言ってから、口付けが落ちてくる。
フローリングの床に押し倒されるような形になって、逃げることは出来なくなった。
セインの言うように、気にしなければいいのかもしれない。
ただ、彼だけを見ていれば。
そう思うも、すぐに見えてしまう現実。
彼のシャツを強く握り締めた。
自分の我儘を通すことで、一緒にいられなくなるかもしれない。
何よりもそれが怖くて。
そう言えば、君は笑うのだろうけど。
タイトルはルネの青に溺れる鳥様より
2011*02*08