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□離せない手
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※とてもパロ
※そして名前呼び


「一郎太」

「ん?なんだ、……じゃなくて、何でしょうか、セイン様」

あぁ、危ない。

またうっかりタメ口になってしまうところだった。

ギリギリのところで(微妙にアウトな気がしないでもないが)言い直して、ほっと息をつく。

頭では気を付けようと常々言い聞かせてはいるものの、やはり十数年してきた反応がそう簡単に直るわけもなく。

「別にそのままでもよいではないか」

セインはそう言うものの、実際、そう簡単にはいかないのだ。

周りの目というやつは、彼が考えている以上に、厳しい。

そもそも、今俺がここにいることだって本来ならば有り得ないのだ。

セインの家は、代々続く富豪で、俺の家も、それと並ぶ名家だった。

その繋がりで、俺とセインは小さい頃からの友人。

歳も近かったから、仲良くなるのに時間はかからなかった。

そして、俺の家が没落したのは、つい一ヶ月程前のこと。

ある事業にお父様が失敗し、家は破産。

なまじ高いところに居ただけに、落ちるのは早かった。

俺たちは追われるように家を出ていき、そして――。

「、っ」

「一郎太!?」

そこから先のことを思い出すと、頭が痛くなる。

思い出したくないということなのだろう。

――その後、俺たち家族は海に身を投げた。

皮肉なことに、俺だけは生き残ってしまったのだが。

「辛いのなら、忘れればいい」

「、」

「私が、守ってやるから」

「セイ、ン」

強く抱き締めそう言われ、次第に呼吸が落ち着いてくる。

甘えてはいけないと、そう思ってはいるけれど、セインの優しさにどうしたってすがってしまう。

「……すみません、」

数度深呼吸してから、やんわりと彼の胸板を押した。

うっかり見られてしまったら、どんな批難を受けるか分からない。

別に俺は何を言われようと構わないが、セインが悪く言われるのは嫌だった。

「一郎太、私は」

「いいんです。こうして側にいれるだけで、十分ですから」

何を言おうとしたのかは分からなかったが、何故だか聞いてはいけないと感じた。

被せるようにそう言えば、セインは不快そうに眉根を寄せてから、俺の手を引いて歩き出す。

振り払うことも出来ぬまま引き摺られるように歩いて行った。

バタン!と、普段では到底聞き得ない音が鼓膜を揺する。

セインの自室。

見慣れた広い部屋に荒々しく連れ込まれ、彼が後ろ手に鍵を閉めたのが見てとれた。

「これなら、別にいいだろう?」

「……え?」

「二人きりならば、今まで通りでも」

そう言って微笑まれ、俺は自分が傾くのを感じる。

そんなのは、甘えだ。

分かって、いるのに。

俺は今険しい顔をしているんだろう。

視線を落とせば、セインが小さく息を吐いた。

「私が寂しいんだ」

「……」

「一郎太が今まで通り接してくれないと、辛い」

「……俺だって。今まで通りでいたいよ。でも今は、俺は使用人で、」

自分を納得させるように、そう呟く。

本当なら、使用人でいることすら出来なかったのだから。

これ以上を求めるなんて、我儘にも程がある。

セインの手が、首元から俺の髪に触れた。

「文句があるやつには、言わせておけばいい」

「、」

そう言ってから、口付けが落ちてくる。

フローリングの床に押し倒されるような形になって、逃げることは出来なくなった。

セインの言うように、気にしなければいいのかもしれない。

ただ、彼だけを見ていれば。

そう思うも、すぐに見えてしまう現実。

彼のシャツを強く握り締めた。

自分の我儘を通すことで、一緒にいられなくなるかもしれない。

何よりもそれが怖くて。

そう言えば、君は笑うのだろうけど。













タイトルはルネの青に溺れる鳥様より


2011*02*08



 

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