メイン5
□その先のことはまたいつか
1ページ/1ページ
女子にも男子にも好かれていて、成績だって悪くない。
もちろん先生からの評判だっていい方である風丸が。
「、好き、なんだ」
特にこれといった取り柄のない、普通、という言葉が何よりもしっくり来る(自分で言って悲しくなるな)、俺を?
理解し難い現状に、冗談か何かだと思ってもみるが、風丸はこれでもかというくらい真剣な顔をしていて、そうではないと理解してしまう。
風丸はじいと此方の様子を窺っているようで、少し上目遣いで俺を見つめている。
普段見ないようなしおらしい様子に思わずたじろぎつつも、答えようと口を開いた瞬間、彼がびくりと震えた。
心なしか目にうっすら涙が溜まってすらいる。
普段の気丈なお前はどうしたんだ、そう言ってやりたくもなったが、口に出せば泣き出してしまいそうだ。
「あ〜え……と」
返答をしようにも上手い言葉が出て来ない。
何を隠そう、告られるのなんて初めてなのだ。
しかもそれが、男、だなんて、対処の仕方が分からない。
そもそも俺はイエスかノーかすら決めかねていて。
風丸のことは好きだけど、それが恋愛感情かと問われればきっと否。
風丸のことを女みたいに思ったことがある、これも否……と、言いたいところだが、こちらはちょっとだけ、ある。
まぁ、風丸が求めているのはそういうんじゃないだろうけど。
そこで俺ははたと気付く。
風丸は何で俺に告白したんだろう。
「、のさ、風丸」
「?」
「例えば、俺と付き合ったと、して」
どうしたいの?そう問えば風丸は数度目を瞬かせた後に、ふいと視線を反らした。
「……それは、その。…………手繋いだり、とか」
散々ためた後に言ったのがそれだったものだから、俺は少し拍子抜けしてしまう。
ついでに机の上に放られている風丸の手を握った。
最初は握手をするように。
それから、所謂恋人繋ぎというような感じで指を絡めてみた。……これはちょっと恥ずかしいかもしれない。
「は、半田?!」
たったそれだけの事なのに、狼狽える風丸が可愛くて、思わず笑みを漏らしてしまった。
「このぐらい、恋人じゃなくてもするだろ」
「そ、それは、そうだけどっ」
風丸は半ば叫ぶようにそう言ってから、諦めたようにため息を吐いた。
「そうだよな……うん。そういう、ことだよ」
一人納得するように呟く風丸に首を傾げる。
何が、と訊けば、彼は指をほどきながら、小さく笑った。
その、今にも泣き出しそうな儚い笑みに、胸の奥が苦しくなる。
「……俺にとったら特別なことも、半田にとったらそうじゃない。つまり、そういう違いなんだ」
分かりにくい言葉で、しかし自分では完結しているらしいことを言われ、思わず彼の腕を掴んでいた。
そうしなければ、きっと次の瞬間には彼は回れ右をしていた筈だ。
「……分からないよ、ちゃんと説明してくれないと」
俺、頭悪いからさ、なんて笑いながら付け加えてみるも、風丸は複雑な表情を崩さない。
「好きだから、俺は手を繋いだだけで嬉しい。けど、半田はそうじゃないんだろ?」
「、」
「……ごめん。今日のことは忘れてくれ」
「風丸っ、」
俺の手を振りほどこうとするのを、力を込めて阻んだ。
好きなのかは、分からない、違うと思ったのは、ついさっき。
なのに、それなのに。
ごめんと言われて、彼が俺から離れようとして、それが嫌だったのは何故、?
俺は風丸を抱き締めた。
殆んど変わらない身長、彼が息を飲むのが伝わった。
「、なに」
戸惑った風丸の声に、返す言葉が見つからない。
好きだと言ったら、嘘になるような、気もする、だけど。
「俺は、風丸と、一緒にいたい。……付き合うとかは、よく分かんないけど」
ずるいと自分でも思ったけれど、今の素直な気持ちはそれだった。それだけだった。
2011*02*09