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□ほんの少しの執行猶予
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俺はどうやら、酷くロココに気に入られてしまったらしい。

「日本の案内ねぇ……俺、この辺しか知らないぞ」

日本に遊びに来るから、是非案内を、とそう頼まれて。

特に断る理由も見当たらなかったから、二つ返事で受けてしまったが。

「別に、構わないよ」

役に立てるか定かでないことをあらかじめ告げるとにこりと笑ってそう言われて、俺は嘆息した。

一体何をしに来たんだ、日本に。

「まぁ、いいや。どっか行きたいとこあるか?」

「そうだね……とりあえず、風丸の家に行ってみたいな」

「……分かった」

ますますこいつが何をしたいのか分からなくなったが、もう諦めて、頷いた。



「家、他に誰もいないの?」

俺の家に上がった彼の第一声。

肯定の言葉を発すれば、そうなんだ、と当たり障りのない返事をしながら勝手に階段を上っていくロココ。

「……まったく」

別に構わないけど、無遠慮過ぎないか?

そう思っていると階段を上りきったロココが俺の名前を呼んだ。

「今行くよ」

その様子がなんだか円堂と似ていて、思わず笑ってしまった。

「部屋、結構綺麗なんだね」

「まぁ、それなりにはな。あ、菓子とか持ってこようか?」

「いや、いいよ」

そんな言葉を交わしてから、俺はベッドの縁に腰かけた。

ロココは興味深げに周りを見回しながら歩いている。

ふと、本棚の前で立ち止まると、俺を振り返って尋ねてきた。

「これ、アルバム?見てもいい?」

「ん、どれ」

立ち上がって見に行けば、青い背表紙。

それは確かにアルバムだった。

そういえば、こんなものもあったっけ。すっかり忘れていた。

「あぁ、見てもいいぜ」

「サンキュー」

ロココはそう言うと、部屋の中央にある小さめのテーブルに向かった。

俺も並んでそれを眺める。

表紙を開けば、おそらく幼稚園ぐらいの頃の写真。

「可愛いね」

「……そうだな」

そう返しながら、俺はなんとも言い難い羞恥に襲われた。

昔の自分の写真を見るのって、結構恥ずかしいかもしれない。

しかし、一度許可してしまった手前今更止めさせるわけにもいかず、俺は黙ってそれを見ていた。

頁を進めるにつれて、俺の年齢も上がっていく。

「……あ、マモル」

「あぁ」

「ていうかここら辺からマモルと一緒に写ってるのばっかりだね」

「仲良くなってからは、大体一緒にいたからな」

小学校の頃の写真を眺めながらそう答える。

実は幼稚園も一緒だったのだが、あの頃はまだあまり話したりしなかったような気がする。

「いつから仲良くなったの?」

「確か……小学……二年、かな」

「へぇ」

ロココからの問い掛けに答えながら、なんとはなしに彼を見れば、どうやら向こうも同じようにしたらしく、ばちりと目が合った。

二人で一つの物を覗き込んでいたものだから、当然距離は近くて。

びっくりして顔を背ければ、彼が小さく笑ったのが聞こえた。

「可愛い」

「……は?」

呟かれた言葉の真意がよく分からずにいると、不意に床に押し倒された。

突然の事だったため、抵抗も出来ずにいると、頭を床で少し打ってしまい、その鈍い痛みに悶えた。

批難の意を込めて彼を睨み付けるも、彼の方はそんな視線をものともせずに微笑んだ。

「すきだよ」

「な、んぅ」

あまりに唐突なその言葉に、聞き返そうとするも、そのまま唇を塞がれた。

予想だにしないその行動と、少しのショックで頭が真っ白になる。

唇は多分一瞬で離されたのだろうけど、俺にはそれが数分にすら感じられた。

「ロココ?!」

呆然としつつ彼を見上げる。

「僕が日本に来たのはね、風丸、君に会いたかったからなんだ」

「、は……?」

「……まぁ、会うだけ、のつもりだったんだけど」

ロココはそう言うと申し訳なさそうに照れ笑いをした。

「……なんだ、それ」

どういう反応をするべきか分かりかねてそう返せば、ごめん、と。

別に怒っているわけじゃないんだけどな。

「今日はとりあえず帰るよ」

「えっ、?」

「だからさ、」

告白の答え、ちゃんと考えておいて。

「――」

あまりの身勝手な要求に。

俺はただ彼の背を見送ることしかできなかった。














2011*02*11



 

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