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□絆されてしまうのも、好きだから
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にこりと弧を描いた唇は、なんだかとても色っぽくて。

それから、俺の唇をそうっと撫でる動作もあまりに自然で嫌味じゃない。

けれども、顔を撫でる指先がむず痒くて、身をよじりながらため息を吐いた。

「アフロディ」

「なんだい?」

こくりと愛らしく首を傾げ髪を靡かせるも、その紅い瞳には悪戯な光が宿っている。

分かっていて問い返してくるのだ、見目は良くても性格は良いとは限らない。

俺は彼の右手を掴んで、言ってやる。

「くすぐったいからやめろよ」

出来うる限り迷惑そうに口に出す。

とはいえ、そこで引き下がるアフロディではない。

「くすぐったいだけ?」

にやりと笑ってそう言われ、まずいと脳内に警報が響く。

距離を取ろうと後ずさる前に、彼の方が、しっかりと俺を捕まえた。

密着した身体。

視界にはらりと舞う金糸に、思わず目を奪われそうになった。

彼はさっきと同じように俺の顔に手を伸ばした。

しかし、その触れ方はさっきとは違う。

するりと頬を撫でた指先は、明らかに、いやらしさを感じさせるようなそれで。

逃げようにも逃げられず、少しばかり身を捩れば、耳に息を吹き掛けられた。

「、ひぁ……っ」

思わず出てしまった声に慌てて口を塞ぐ。

アフロディはそんな俺の様子に気を良くしたらしく、耳をはむりと甘噛みした。

予想外の行動に、不意打ちで身体に電流が走る。

耐えきれず彼にしがみつくような形になって、あまりの恥ずかしさに俯いた。

「、馬鹿、何するんだよ」

「可愛かったから、つい」

飄々とそう言ってのけてから、ごめんねと付け足した。

どう考えても言葉だけのそれに腹が立ったものだから、一発軽く殴ってやった。

「っつ……何するのさ」

「自業自得だろ」

「……風丸くんって、結構凶暴だよね」

「なっ、誰のせいだと、」

呟かれた不本意な言葉に彼を睨んだ。

目が合った瞬間、それを後悔。

落ちてくる口づけから逃げる方法は見付からなかったから、諦めてそれを甘受けした。

別に、彼とこうすることが嫌いなわけではない。

嫌だったらそもそも付き合ってなどいないし。

ただ、もうちょっとこっちを気遣ってくれてもいいのでは、とか、稀に思ってしまうわけで。

(……でも、まぁ)

強引なところも、好きなんだよな、と唇を合わせながらぼんやり思う。

俺にない分の積極性を彼が持ち合わせてくれている気がして、それで釣り合いがとれているんだろうなとすら思った。

唇同士を離したかと思えば、おまけとばかりに一度ぺろりと唇を舐められた。

油断するとすぐこれだ。

何も言えずにいる俺に、彼は「ごちそうさま」と。

よくもまぁそんなに恥ずかしいことを平然とするもんだと思いながらも、彼の嬉しそうな瞳を見てしまえば声に出すことは憚られるのだった。














2011*02*18



 

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