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□僕らの青春エンドロール
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※大学生くらい


積み上げられた缶の崩れるけたたましい音に、反射的に目を瞑る。

スーパーに買い物に来て、食品売り場を見ていたときの事。

人が前を通りすぎるのを避けた際に、左肘が後ろの商品にぶつかった。

もっとちゃんと周りを確認すればよかったと、後悔してももう遅い。

俺はため息を吐いてからそれを片付け始めた。

「大丈夫ですか?私がやるのでいいですよ」

少しすると、こちらの様子に気付いたらしい店員が駆け寄ってくる。

「いや、その……」

任せてしまうのが普通なのだろうが、何分自分がやってしまった事なのだから、あっさり引き下がる気にもなれず、曖昧な言葉を発しながら、振り向いた。

「、」

目が合って、二人の間になんとも言い難い沈黙が落ちる。

見知った顔……というわけではないにしろ、なんとなく既視感を覚えた。

それは向こうも同じだったらしく、少し眉を寄せて首を傾げた。

俺は彼のエプロンに着いているネームプレートに目をやる。

「……涼野……あぁ、韓国戦で」

韓国側にいた気がする。

随分と懐かしい記憶を引っ張り出してから、もう一度彼を見た。

そういえば、元エイリアでもあったことをあのあと誰かから聞いた。

涼野の方も暫く考えてから俺のことを思い出したらしく、あぁ、と。

「雷門の……」

「風丸一郎太だ」

流石に名前までは覚えていないだろうと思いそう言えば、彼は口の中で俺の名前を反芻した。

それから、ふと気付いたように床に視線を落としてから、しゃがみこむ。

「あぁ、すまない。これ」

「俺がやるよ。落としたの俺だし」

「じゃあ、手伝ってくれ」

直接会話を交わしたことは無いにしろ、少しでも会ったことがあると分かった途端、お互い妙に砕けた態度になる。

やらなくていいというつもりで言ったのだが、涼野はそう受け取らなかったのか、てきぱきと缶を片付け始めた。

俺も同じようにしながら、彼に話し掛ける。

「バイトか?」

「あぁ。一人暮らしだからな」

「へぇ、俺と同じだ」

「そうなのか?」

「あぁ。……あ、バイト、何時までなんだ?」

「多分もうそろそろ終わるが」

「……もしよければ、昼飯、食べに来ないか?」

「、は?」

俺の誘いが予期せぬものだったのだろう。

彼は、驚いた様子で俺を見た。

缶は大方片付いた。

俺は、立ち上がりながら、涼野に問い直す。

「予定とかあるんなら、もちろん別にいいけどさ。どうだ?」

涼野は一瞬考えるように視線を外してから、じゃあ、と頷いた。




アパートのドアを開けて、涼野を促す。

「入れよ」

「お邪魔します」

他人の家に行くということがなかなか無いらしい涼野は、妙に緊張した面持ちで足を踏み入れた。

そんな様子に笑いが込み上げながらも、俺も家に入る。

涼野をリビングのソファに座らせながら、俺はキッチンに向かった。

キッチンと言っても、リビングの一角だ。

「料理とかするんだな」

「そりゃあ、一人暮らしだし……涼野はしないのか?」

「あぁ。大抵コンビニで買ったりとか」

「身体に悪いぞ」

そんな他愛もない話をしながらも、手は料理を作っていく。

普段よりも捗る気がするのは、やはり誰かがいるからだろう。

正直俺は、一人での食事に飽きつつあった。

まぁ、たまーに円堂とかは来たりするのだが、彼はなかなか忙しい。

友人に外食を誘われたりしても、金銭的に頻繁には行けないし。

「そういえば、ヒロトとかと連絡とったりしてるのか?」

「そうだな……南雲とはたまに会うが。ヒロトもたまに連絡してくるな」

「南雲……はあいつか。ヒロト、元気そうか?」

「元気そうだぞ。緑川と一緒に暮らしてるみたいだな」

「へぇ」

懐かしい名前に目を細める。

ヒロトと緑川仲良かったもんな。

そんな話をしている内に料理が出来たのでフライパンの火を止める。

それを大皿に移してから、買い物に行く前に炊いておいたご飯をよそって、二つをテーブルに出した。

ソファから移動してきた涼野は、驚いたようにそれを見る。

「……すごいな」

「炒めるだけだし、簡単だぜ?涼野もやろうと思えば出来るだろ」

ざっと作ったしょうが焼きをそんな風に言われ、なんとなく照れる。

俺も席に座り、どちらからともなくいただきますと呟く。

俺は、自分が手をつける前に涼野が食べるのを見た。

彼が肉を咽下したのを確認してから、恐る恐る訊いてみる。

「味、どうだ?……変じゃないとは思うが」

「美味しい。風丸、料理上手いんだな」

「、そ、そうか……ありがとう」

微笑みながらそう言われたのが照れ臭くて、視線を外しながらそう答えた。

涼野はそんな俺を見ながら、ぽつりと呟く。

「風丸は、いいお嫁さんになれそうだな」

「はぁっ?!」

あっさりと、しかも真顔でそんなことを言われたものだから、俺は裏返った声を出してしまう。

その様子が面白かったらしく、涼野は堪え切れなかったようにくつくつ笑い出した。

「何で笑うんだよ……」

不満気にそう呟きながら、顔が火照ってしまうのが自分でもわかる。

ご飯を口に運びながら涼野を睨めば、彼はなんだか酷く柔らかい表情で俺を見ていた。

「……なんだよ」

「いや、面白いなぁと思って」

「からかってるのか?」

「……そういう訳じゃないんだけどな」

そう言ってから、涼野はぼんやりと俺を見詰めて。

「……風丸みたいな嫁だったら、欲しいかな」

「……それは、笑うところか?」

「好きに受け取ってくれて構わないよ」

「なんだそれ」

ため息混じりに苦笑する。

全く、こういう冗談には慣れてないんだけど。

まさか本気なわけも無いだろうし、それはそこで流して、食べる方に集中する。

……もう少し味薄い方がよかったかもな。

「もし」

「……ん」

「さっきのが冗談ではないとしたら?」

いきなりそう問うてきたからまだそのネタ続けるのかと笑いながら顔を上げる。

「……」

俺の予想に反して彼が真面目な顔をしていたものだから、驚いた。

「……本気なのか?」

まさかというニュアンスを混ぜながら問い掛ける。

彼はふと笑うと、さぁね、と。

はぐらかされた気もするが、問い詰める気にもならなくて、俺もそう、とだけ返した。












タイトルは虚言症様より


2011*02*19



 

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