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□甘い響きのそれは何処か
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たまに、酷く恐ろしくなるときがある。

もし、もしも、彼が戦争で死んでしまっていたら、そう考えて。

一度は、自分が殺したと思った。

まるで先が見えなくなるような感覚は、数年経った今でも覚えている。

もうあの時のことはお互い然程気にしていないし、常々そんなことを考えているわけではないけれど。

「……キラ」

隣に座るキラの身体を抱き締める。

その暖かさが、俺の心を溶かした。

今彼に触れられているという事実が、何より幸せで。

「……アスラン?どうしたの」

彼は小さく微笑みながら呟いて、俺の頭を撫でた。

何でも受け入れてくれる、そのキラのスタンスに、どうしようもない愛しさを感じた。

「好き」

独り言のようにそう漏らせば、キラも、僕もだよ、と返した。

普段なら照れてそっぽを向くのがお決まりの反応なのだが、キラは、俺の心の変化に敏感なようだった。

俺も、キラのことは深く理解しているつもりだが、キラはきっと俺以上。

漠然とした沈黙が二人の間に流れる。

何もしないでただ寄り添っていることが、こんなにも幸せだなんて思いもしなかった。

そうっと指先を絡めてみれば、彼はくすぐったそうに息を漏らした。

「ふふ、アスラン、今日は子供みたいだ」

「……キラは、大人みたいだね」

「君が弱ってる分。僕が支えなくちゃいけないでしょう?」

当たり前のように言われた言葉に、笑みが漏れた。

俺を支えられるのはキラだけだって、そういう共通認識。

昔から変わらないそれは、二人を繋ぐ紐となる。

「もちろん、僕が弱ってる時は、君が支えるんだからね」

「分かってるよ。……キラが弱ってるとこなんて、滅多に見ないけど」

「お互い様でしょ」

そうだったな、と笑いながら頷く。

二人とも、あんまり自分の弱い姿、他人に見せたがらないから。

……いや、それは人間なら誰でもそうか。

「……アスラン」

キラは、思い出したようにふと呟く。

「僕は、君から離れたり、しないよ」

「……。……キラってさ」

その言葉に、少しだけ驚いた。

まるで、ついさっきの俺の心を読んだみたいだ。

「エスパーみたいだよな」

「……誉めてるの?」

「いや、そのままの意味だけど」

不満気に言われて、どうしてそうなるんだと思いながらも言葉を返す。

キラは微妙に納得出来ていないような顔のまま、顔を前に戻した。

視線の先に何を見ているのであろうか、切な気に眉を潜めた彼に、心臓がどきりと音を立てる。

時折、彼がこうして遠くを見る度、俺は苦しくて堪らなくなる。

根本は変わっていないと思うのだけれど。

大人になったと言えばそれまでだろう。

昔のままで、なんて無茶な話で、俺だって変わってないはずがない。

だけど。

「……キラ、好きだよ。昔から、ずっと」

「何……?」

「キラは、もっと我儘でいいよ。せめて、俺の前だけでも、そうして欲しい。もちろん、どんなキラも好きだけど……そっちの方が、嬉しい」

「……アスラン」

キラは驚いたように目を見開いて、それから、寂しげに笑った。

「別に、我慢してるつもりもないけど」

「そうかぁ?」

からかうように言ってみれば、キラは少し膨れてこちらを睨み付ける。

「……僕も、アスランがいるだけで十分だから」

何でそんなことも分かんないの、とでも言うようなニュアンスでそう告げられる。

さりげなく「僕も」という表現を使っていて、思わず苦笑。

確かに、俺もキラがいればそれでいい、とか思ってはいるけれど。

「そういうんじゃなくてさ、なんか……ないの?宿題手伝ってー、みたいな」

小さい頃の記憶を引っ張り出しながらそう言う。

キラは、少し逡巡してから、口を開いた。


「じゃあ、さ」


キスしてよ。

誘うように囁かれた声は甘く響いた。


(それ、我儘じゃなくないか?)
(……文句言わないでよね)












2011*02*20



 

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