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□伝わると信じていたりする
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※兄弟設定
俺には、一つ上の兄さんがいる。
一つしか違わないはずなのに、顔立ちとか、身長とかは随分彼の方が大人びていて、それが少し悔しい。
似ているのなんて、精々髪の毛の色くらいだろう。
でも俺は、そういった面の引け目よりも、かっこいい兄さんがいることが自慢だった。
俺は、兄さんが大好きだった。
それは、ただの家族に対する愛情だけではないと、気付いたのは随分前。
向こうも同じように思ってくれていたらしく、恋人になったのは、つい最近。
「ただいま〜」
「……イチ」
玄関の扉を開ければ、仁王立ちしたエドガー兄さんの姿。
不味いと思ったのは極力外に出さず、笑って誤魔化そうと思うも、彼の表情は緩和されない。
「……どこへ行っていた」
「友達ん家」
「何も言わずに家を出るなと言っているだろう」
高圧的な視線にため息を吐きかけるが、寸でのところで飲み込んだ。
ここでため息を吐こうものなら、更に小言の時間が増えることが目に見えている。
付き合い始めてからというもの、元々あった心配性に拍車がかかってしまった。
少しくらいなら心配されるのも嬉しいものだが、度を過ぎていると単に鬱陶しい。
「兄さん。俺だってもう子供じゃないんだから」
「子供扱いをしているつもりではない。……だが、不安なんだ。イチは可愛いから」
大真面目な顔をしながらそう言われて、今度は留めることはせずため息を吐いた。
「大丈夫だよ。俺だって男だし」
「イチ、」
「兄さんが思ってるほど、俺に興味あるやつなんていないって」
途中咎めるように名前を呼ばれたが、無視して話を続ける。
兄さんはいつもあたかも俺が世の中の男全員に狙われているような物言いをするけれど、普通に考えてそんなことあるはずがない。
兄さんの考えすぎだと毎回諌めているつもりなのに、一向にその考えは直る兆しを見せない。
兄さんは不満そうに俺を見下げながら、ぽつりと呟いた。
「……イチが自分の可愛さに気付いていないから余計に不安なんだ」
「……はぁ」
わかってくれる様子のない兄さんに、本日二度目のため息を吐いた。
そろそろ玄関口で立ったままなのに疲れてきたので、俺は靴を脱いで家に上がる。
そしてそのまままっすぐ階段へ向かおうとするも、途中で兄さんに阻まれた。
なんとなくそうされる気はしてたから、俺はとりあえずは立ち止まる。
何、と、声には出さず兄さんを見上げれば、兄さんは暫く何か言いたげにしていたが、それはもう諦めたらしく、ぎゅうと俺を抱き締めた。
普段よりもその力が強くて、本当に心配していたんだなと思うと、ほんの少し申し訳ない気分になった。
「イチ、おかえり」
そういえば帰宅後の挨拶を済ませていなかったことを思い出したのだろう。
そう言った兄さんに、俺もただいま、と再び言う。
甘い低音の声は、兄さんの好きなところの一つだ。
「イチ」
短く名前を呼んで、兄さんの指が俺の頬に触れた。
そのこそばゆさに変な気持ちになりながらも、瞼を落とす。
この動作は、兄さんが俺にキスするときの癖だ。
俺にとってはキスされる合図。
視界を遮ってから少しして、兄さんの唇が俺のそこに触れた。
啄むような触れるだけのキスを数回して、それから、彼の舌が俺の歯列をなぞった。
少しだけ口を開いて、兄さんの舌を誘い込む。
くちゅりという水音が微かに聞こえて、初めてでもないのに、やはり恥ずかしくなる。
「……ふ、んぅ」
普段よりも幾分か激しいキスに、思わず声が漏れた。
いつもならもっと穏やかにするはずなのに、ぼぅっとする頭でそう考える。
(……まだ怒ってるのか)
ふと浮かんだ考えは、酷く合点のいくものだった。
そんなに心配しなくたって、俺は兄さんにしか興味ないのに。
「んぁ、に……いさ」
少し息苦しくなって、彼のシャツを引きながらそう言った。
喋ろうとすると喘ぎ声が混じってしまって恥ずかしい。
兄さんは俺の意図を汲み取ってくれたようで、ゆっくりと唇を離した。
離れる際、わざとリップ音をたてられ赤面する。
俺は情けないことに、激しいキスに目が潤んでいて、それを拭ってから兄さんを見上げる。
「……ごめん」
「、何がだ?」
「心配してくれてたのに……いや、あんまり嬉しくはないんだけど」
でも、ごめん、そう続ければ、兄さんは複雑そうな顔をして頭を掻いた。
「謝られると、少し心が痛むのだが」
「じゃあどうしろっていうんだよ」
「……せめて、ありがとうにしてくれないか?」
「ありがとう、兄さん」
どっちでもいいじゃないかと思い笑いながらそう言えば、兄さんは言葉に詰まった。
何故だか視線をあっちこっちに飛ばすものだから不思議に思って顔を覗き込む。
視線が合えば兄さんは俺を抱き締めて呟いた。
「……イチ、可愛い」
「なんだよ」
「私が不安になるのも仕様がないだろう」
「そんなこと言ったら俺だって……」
兄さんかっこいいし女たらしだから、いつも不安で仕方ないってのに。
そう言おうとしたが、そこまで言うのには羞恥心が邪魔をした。
2011*02*22