メイン5

□貴方の視線を強奪
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※風丸さんが先天性女体化
※マネジやってる




「……あれ?」

今日の練習が終わり、ボールを片付けていた時のこと。

数が一つ足りなくて、何処かに忘れてしまったのだろうかと思いながら合宿所を出る。

少し歩くと、聞き慣れたボールを蹴る音。

誰かが練習を続けているのかと思ったけれど、その考えは一瞬後に払拭する。

選手のみんなは、今はご飯の時間なはず。

みんな揃わないと秋さんや春奈ちゃんは怒るから、選手のはずがなかったのだ。

じゃあ、一体誰が。

不思議に思いながら、フィールドを覗き込む。

「……風丸さん」

そこでボールを蹴っていたのは、私と同じイナズマジャパンのマネージャーの風丸さんだった。

ジャージ姿そのままに、ボールを蹴る。

ポニーテールを舞わせながら綺麗なフォームで駆ける姿に、思わず目を奪われた。

それから少しして、ゴールの網の音が小さく鼓膜に届く。

「すごい、」

選手のみんなに引けを取らないくらいのボール捌きに、感嘆の声が漏れた。

それはそんなに大きな声ではなかったと思うけれど、風丸さんはバッと顔を上げて。

目が合うと、照れたように微笑んだ。

その表情が愛らしくて、不意にどきりとした。

私は階段を降りて、風丸さんの近くに行く。

風丸さんは少し不思議そうな顔をしたけれど、すぐに思い出したようにゴールに駆けた。

「ごめん、ボール、だよな?」

パンパンとボールについた泥を払いながら、そう言う風丸さんに、大丈夫だと返してからそれを受け取る。

「サッカー、上手いんだね」

「まぁ、そこそこは。昔円堂に教えてもらったから」

そう言って風丸さんは目を細める。

守くんの話をするときの彼女はいつもそう。

普段以上に、柔らかくて、しあわせそうな顔をする。

その表情に、胸の奥がつきんと痛んだ。

……風丸さんは、守くんのことを好きなのだろうか。

まだ雷門中の人数が少なかった頃、最初は助っ人としてサッカー部に入ったのだと聞いた。

本来は女の子は出られない筈なのだけれど、どうにか誤魔化してFFに出場したんだって前に話してくれた。

大好きだった陸上を辞めてサッカー部に来て、今もマネージャーとしてチームに貢献している。

単にサッカーが好きなのかもしれないけど。

「……風丸さんは、守くんのこと、好き?」

耐えきれなくてそう聞けば、風丸さんは急に真っ赤になって頭を振った。

それだけでもうイエスと言っているようなものだ。

「えっ、円堂のことは好きだけど、そうじゃなくて……!!」

私がそんな風に思っていることなど露ほども知らない彼女は慌てふためきながらそう言った。

顔を赤くしながら必死に話す姿は可愛くて、その表情の原因が自分じゃないことに妬ましさを抱いた。

らしくもない醜い感情に、自分自身で戸惑う。


恋ってそういうものなのかもしれないけれど。

「……久遠?」

私が反応を返さないのを訝しんだのだろう、風丸さんは、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。

「、な、なぁに?」

急に顔を近づけられ、びっくりした。

心臓がばくばくいってるのを悟られないように、至って平静を装う。

風丸さんは戸惑ったように体制を戻した。

「いや……少し、ボーッとしていたから」

「そう、かな」

あはは、と誤魔化すように笑えば、風丸さんはそれ以上追求する気はないのか口を噤んだ。

それから、気まずげに視線を外した。

「……あの、さ。その……えーと」

「ん?」

「久遠は、その、」

言いずらそうに口ごもる風丸さん。

真っ赤になっていたから大方何を言いたいかの予想はついた。

「守くんのこと?」

「、」

図星だったらしく、風丸さんは身体を硬直させた。

私は微笑みながら答える。

「私は、別に」

「……そ、そうなのか?」

「うん」

意外そうな顔をする風丸さんに、強く頷く。

だって、私が好きなのは風丸さんだもの。

風丸さんは私がライバルではないと知って安心したらしく、ほっと息をついた。

彼女の気分は晴れたのだろうけど、その瞬間、私の心は曇った。

私は、風丸さんに近付く。

そのまま、躊躇う間も作らず唇を触れ合わせる。

こういうのは、勢いでしてしまうものだと、私は思っていた。

同性なら尚更だ。

躊躇ったが最後、再び行動に移すのがいつになるか分かったものじゃない。

数秒唇を触れ合わせてから、身体ごと離れる。

柔らかな感覚を、私はしっかり記憶した。

当たり前だけれど、風丸さんは呆然とした表情で固まっている。

赤くなった顔は、きっと守くんの話をしているとき以上。

ちょっとした優越感が私の心に広がった。

「……私が好きなのは」

にこり、と笑みを浮かべて彼女に話し掛ける。

やっと我に返ったらしい風丸さんは、それでもまだ、上手く動けずにいるようだった。

「風丸さんだよ」

「……な」

言い切ると風丸さんは何か言いたげに口を開いた。

けれど結局言葉が出てこなかったようで、再び口を噤む。

「ボール、片付けてくるね」

私はいつも通りの声色で、彼女にそう言う。

そんな様子にますます混乱したらしく、彼女はただ頷いた。


(いつか守くんのことなんて考えられなくしてあげる)














タイトルは虚言症様より


2010*02*26


 

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