メイン5

□ホントは笑っちゃうくらい単純
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「、っつぅ」

ズザザァッという、土の擦れる音がフィールドに響いた。

「大丈夫か?」

後ろからそう声を掛けてくるのは円堂。

駆け寄らんばかりのその声に、俺は笑いながら返した。

「あぁ、大丈、」

大丈夫、そう言いかけたところで、右足に鈍痛が走り、体制をぐらつかせる。

来るべき衝撃に備えて腕を出しておくも、いつまでたっても痛みは来ない。

不思議に思って薄く目を開いてみると、そこには。

「豪炎寺!?」

「……大丈夫か?」

ついさっき円堂から聞いたのと全く同じセリフに気恥ずかしくなる。

「ご、ごめん」

慌てて離れようとするも、彼は俺から腕を離そうとしない。

不思議に思い彼を見れば、少し呆れたような声色で一言。

「……足、痛いんだろ?」

「うぅ……」

図星を突かれて押し黙る。

確かに今も地味な痛みが右足首(と擦りむいた膝)で続いていた。

スライディングで足首捻るなんて、初心者でもないのに恥ずかしい。

しかし、起こってしまったことは仕方ない。

ため息混じりに豪炎寺にベンチまで同行してくれるよう頼む。

一人で歩こうと思えば出来ないこともないだろうが、さっき転びそうになった手前、そうする方が無難だと感じた。

ベンチに辿り着く前に、薬品箱を持った音無が俺たちの前まで駆けてきた。

どうしたんだとどちらからともなく問えば、音無はすみません、と前置きをしてから。

「コールドスプレー、切れちゃったみたいで。合宿所まで取りに行きますね」

「……いや、俺たちが行く。貸してくれ」

「はぁ?」

「でも、足痛いんだったら動かさない方が……」

戸惑ったような音無の声に同調する。

物凄く痛いというわけではないにしろ、座って待っていられるのならそっちの方がいい。

しかし豪炎寺はその意思を曲げるつもりはないようで、音無にコールドスプレーの場所を聞いている。

音無も最初は渋っていたものの、話しているうちに諦めたのか豪炎寺に話を合わせてしまった。

マネージャーとしてそれはどうなんだと、図々しいながらも思ってしまう。

そもそも怪我するのが自分の不注意なのだから、口に出したりできないけれど。

音無から場所を聞き終えた豪炎寺は、俺の身体を支えたまま動き出した。

俺は流石に然程痛くない足を庇って歩くのが辛くなり、豪炎寺に離すように言う。

「……でも、」

「少し歩くくらいなら平気だって、な?」

念を押すようにそう言えば、豪炎寺は渋々身体を離した。




「思ったより血出てるな」

合宿所に着いて、椅子に座らせられる。

豪炎寺の言葉に足を見てみれば、確かに思ったよりも血が出ていた。

これだけ出血していればかなり痛みそうなものだが、あまり痛みは感じない。

それよりも、豪炎寺に足をまじまじと見られることの方に気を取られて妙に緊張してしまう。

豪炎寺とは、所謂恋人の間柄。

だからこそ、こういう状況だと、妙に身体が強張ってしまう。

最近は二人きりということもなかなかなかったから、少しだけ、期待、してるかもしれない。

こんな状況で不釣り合いにも程があることを考えていると、急に足を冷やされ我に返った。

「あぁ、すまん。驚いたか」

「ん、いや、ちょっと」

一瞬、自分が考えていることを読まれたのではないかと思ってひやひやした。

豪炎寺は真面目に治療してくれているらしく、今度は消毒液を取り出して綿に含ませた。

「、っ」

傷口にそれが触れて、ひんやりとした感覚と、沁みてくる痛みに身震いする。

別に慣れっこではあるのだが、この感覚はどうしたって好きになれない。

消毒を終えると丁寧に絆創膏を貼り付けられた。

「……ありがとう」

「どういたしまして」

言いながら救急箱を整理している豪炎寺をこっそり見上げる。

真剣な横顔に、思わずときめいた。

(……やっぱりかっこいい、よなぁ)

羨ましさ半分にそう考えてから、まるで惚気ているようだと恥ずかしくなった。

勝手に集まってしまった頬の熱をどうにかしたくて気を紛らそうとするも、そうしようとすればするほど、豪炎寺に気が行ってしまい、単純に逆効果。

豪炎寺が立ち上がったのが見えて、少しだけほっとした。

これ以上二人きりでいたら俺の心臓が持たない。

しかし。

「風丸」

名前を呼ばれたので、顔を上げた。

返事をする前に塞がれた唇。

「?!」

てっきり、先に戻っている、だとかそういうことを言うかと思っていたから、本気で驚いてしまう。

呆然としているうちに唇が離される。

そんな俺をよそに豪炎寺は平然と隣に座った。

「……戻らなくていいのかよ」

数秒考えた後に出てきた言葉がそれだった。

嫌だった訳ではないけれど、驚かされたのが少し気に食わなかったから不満気な声色になってしまう。

豪炎寺はさしてそれを気にする風もなく、俺に笑いかけた。

「少しぐらい大丈夫だろ」

「……不真面目」

「仕方ないだろう。嬉しいんだから」

心なしか本当に嬉しそうな声色でそう言われて、何が、と問うた。

「風丸と、二人きりなのが久々だからな」

そう言って豪炎寺は、俺の髪の毛に触れた。

ついさっきまで。

俺も似たようなこと考えていた。

その事実に嬉しくなる。

仕方ないなぁなんて呟いて、俺も少しだけ豪炎寺に近寄った。

唇が触れ合うのを求めていたのは、きっと俺の方だった。













タイトルはルネの青に溺れる鳥様より


2011*03*02



 

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