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□僕の願いはただひとつ
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パチパチと焚き火から散る火花が少しだけ弱まった。

木の枝を追加しようとしたところで、それが残り僅かだったことに気が付く。

とりあえずその分は放り込んで、木の枝を拾いに行こうと立ち上がった。

火から離れると冷気が襲ってきて身震いした。

早目に戻りたいと思い、早歩きで前に見付けた木の枝拾いに丁度いい場所へ向かう。

暫く歩いていると、数メートル先に人がいることに気が付いた。

後ろから見ても見間違えようのない特徴的な髪形。

……アデクさんだ。

ぼくは話し掛けようか少し迷ったが、結局声を掛けてしまった。

「アデクさん」

「?おぉ、チェレンか」

ぼくが声を掛けると、アデクさんは振り返った(当然だけれど)。

「どうしたんだ、こんなところで」

そう問い掛けてくるアデクさんの隣に駆け寄りながら答える。

「木の枝が切れてしまったので……この近くで野宿してるんです」

そう言うとアデクさんは納得したように頷いた。

今度はぼくが何をしていたのかと問い掛ければ、特になにも、というよく分からない答えが返ってくる。

何もしないのにこんなところに来るだろうかと疑問に思うも、この人の考えがぼくと根本的に違うことはとうに分かっているので、わざわざ訊きもしなかった。

風が吹くと、寒さがぼくを襲った。

それから、アデクさんを見つけてから今まで寒さを忘れていた自分に少し驚く。

無意識だとしても、彼に会えて浮かれていたのかもしれない。

そんなことを冷静に頭の隅で考えていると、アデクさんが急にぼくの頬を撫でたものだから思考が一気に霧散した。

「……何ですか?」

平静を装いつつそう問えば、アデクさんは柔らかく笑った。

「寒そうだなと思ってな」

「……アデクさんは、寒くないんですか?」

「寒そうに見えるか?」

「……全然」

からかうように言われて少し苛立ちながら答える。

馬鹿にしているのだろうか。

貧弱だと言われているようでなんだか悔しくなった。

そんなはずないことくらいぼくが一番分かっているけれど。

アデクさんがそのまま歩き出したので、なんとなくぼくも付いていく。

「どこ、行くんですか?」

「木の枝を拾いに行くんだろ?」

「……へ?」

予期せぬ返答に、思わず間抜けな声をあげてしまう。

一緒に眼鏡がずり落ちて、ぼくはそれを直しながらアデクさんに問い直した。

「……木の枝って」

「ん?拾いに行くって、さっきそう言ってなかったか?」

「ぼくはそう言いましたけど……」

「一緒に行ってはいけなかったか?」

きょとんとした顔でそう言われて、やっと事態を理解する。

つまり、アデクさんは、ぼくの枝拾いに着いてこようと。

言われてみれば確かに、向かっている先はぼくの目的地であるようだった。

どこに行くとまでは言わなかった気がするが、アデクさんのことだから、この辺りにも詳しいのだろう。

「……いいんですか?」

きっと手伝ってくれるのだろうと考えて、一応訊いてみる。

「どうせ暇だしな」

「……暇って……」

するべきことはあるのではないかと突っ込みたくなったが、その言葉は飲み込んだ。




「……これだけあれば十分か?」

「多すぎません?」

「あって困ることもないだろ」

両手いっぱいに木の枝を抱えたアデクさんに呆れを交えつつそう言えば朗らかに笑い返された。

楽しそうだからまぁいいのかな。

正直アデクさんに荷物持ちにも似たことをさせてしまうのは非常に気が引けたのだが、それすらもどうでもよくなってしまうほど、分かりやすくアデクさんは上機嫌だった。

何故そんなに嬉しそうなのかと言えば、彼もぼくに会えたから、なのだろう。

勘違いだったら自意識過剰なことこの上ないが、間違いではない、と思う、多分。

まさか直接聞くわけにもいかないので確証はないが、とりあえずそういうことにしておこう。

……というか、他に理由も見当たらないし。

流石のアデクさんもぼくが野宿している場所までは分からないので、帰りは僅かにぼくが先を行く。

テントに着けば、アデクさんは木の枝を下ろしてから一ヶ所に集めてある食材を吟味し出した。

「……アデクさん?」

何をしているのか、というか何がしたいのかがさっぱり分からなくて首を傾げる。

「これなら作れるか」

ぼくに言うように、というより独り言のように呟かれたその言葉に思わず眉をひそめた。

もしかしなくても、料理をするつもりなんじゃ。

遠慮というより恐れ多いという気分、断りたいがうまい言葉が見つからず何も言えずにいると、アデクさんがそんな様子に気付いたようで。

「、何でそんな微妙な顔をしているのだ」

「いえ、別に……」

言い淀むぼくにアデクさんは苦笑しながら。

「……何か暖かいものをと思ったのだが」

そう言われた際のなんとも言えないむず痒さに、ぼくは顔を反らした。

料理なんかより、アデクさんのその心遣いが何よりぼくを暖めてくれることを、彼は知っているだろうに。











タイトルは星になった、涙屑様より


2011*03*04


 

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