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初めて見る外の世界は、俺の知識とは程遠いものだった。

やたら高い建物に車とかいう機械とか。

こうして豪炎寺と一緒に暮らせるようになったはいいものの、この環境に適応できるか、いまいち不安だ。

それでもこうして、俺の手を握った豪炎寺が事細かに説明してくれている。

そのお陰で、不安すらも楽しみに感じた。

「ここが俺の暮らしてるマンションだ」

「、でか……」

彼に言われてその建物を見上げる。

急に不安が押し寄せて、マンションの扉を開こうとする豪炎寺の腕を引いた。

「やっぱり、迷惑なんじゃ」

見上げながらそう言えば、豪炎寺は驚いたような顔をした。

それから、苦笑して俺の言葉を否定する。

「大丈夫だ」

無責任にそう言っているわけではないのだろう。

そうは思うも、しかし躊躇いは拭えない。

確かに行くところがないとはいえ、そう簡単に人の家庭にお邪魔していいものなのか。

俺たちの世界に比べ家族という概念が濃いらしいのは知っていたから、やはり戸惑ってしまう。

豪炎寺は言葉では埒があかないと感じたのか、行くぞ、と一言言うと、有無を言わさず俺の腕を引いた。

「ただいま」

「おかえりー……って、あれ」

「お、お邪魔します……」

で、合っているんだろうか。

ぎこちない動作で頭を下げる。

お辞儀をしてから今一度出迎えてくれた少女を見た。

目が合うと人懐っこい笑みを浮かべつつ会釈された。

つられて俺も笑い返す。

と、そこで、俺たちの様子を眺めていた豪炎寺が口を開いた。

「妹の夕香だ」

「あぁ。……よろしく」

そういえば前に声だけ聞いたことがあるなぁと思いながらそう言った。

次に豪炎寺は、夕香ちゃんに俺の紹介をしようとしたのだろう、一度俺に視線を合わせた。

それから、少し逡巡する。

多分、なんと説明したらいいのか迷っているのだ。

そりゃあ、元河童だ、なんて言い難いだろうし、言ったところで信じるとも考えにくい。

そうして最終的に豪炎寺が発したのは。

「……風丸一郎太。友達で、訳あって家で一緒に暮らすことになった」

「へぇ……。よろしくね、風丸さん!」

ぺこりと跳ねるような動作で頭を下げられ面食らう。

家に人が一人増えるというのに、こんなにあっさりしていて良いのだろうか。

自分の予想出来ない展開に上手く着いていけないまま、兄妹に勧められて家に入る。

綺麗に片付けられた室内は、やはり俺の知っている部屋とは全く違って。

あらゆるものに恐る恐る触れてみれば、その度に豪炎寺たちに笑われた。

「あはは、CDプレーヤーがそんなに珍しいの?」

「俺のところにこういうのなかったし……」

夕香ちゃんの発言に答えかけてからハッとする。

隠しているつもりもないけれど、とりあえず今はずっと人間だったように振る舞った方がよかったかもしれない。

窺うように豪炎寺を見るが、彼は疑問符が端に浮いているような表情で俺を見返してきた。

両想いだと分かったとはいえまだ視線だけで心を通わせたりは出来ないらしい。

少し落胆していると、夕香ちゃんが興味深げに俺を覗き込んできた。

「音楽とか聞かないの?」

「ん、あぁ、そうなんだ」

彼女には俺が普通に人間に見えているようだ。

いや、見えてなかったら困るのだが。

話を合わせるように答えながら、嘘をついているという事実に胸の奥がつきんと痛んだ。

「……夕香、少し外してくれないか?」

「え、いいけど。なんで?」

「ちょっとな」

首を傾げる夕香ちゃの質問をに豪炎寺は曖昧な言葉で濁した。

夕香ちゃんは俺にも視線を寄越したが、俺もなんでか分からなくて苦笑する。

夕香ちゃんは暫く納得いかないような顔をしていたものの、まぁいいかというように部屋を後にした。

「あ、おやつあるからね」

部屋を出る直前、思い出したように振り返りそう言った夕香ちゃんにそれぞれ反応する。

パタリと戸が閉まると、心なしかその場の空気が弛んだ。

思っていたより俺は気を張っていたようだった。














2011*03*06



 

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