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□それはもう熱情
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彼はこんな風だったろうか。
入り口の扉が開かれて、見ればトウヤ君が立っていた。
彼がチャンピオンを倒したという話は耳に入っていたから、何とはなしに三人の間に緊張が走る。
トウヤ君は迷いなくコーン達の元へ足を進めた。
いや、達、ではなく、コーンに、向かって。
彼の視線は真っ直ぐコーンに注がれていた。
まるで、コーンの兄弟達が見えていないとでもいうように。
デントとポッドもそれに気が付いたらしく、不思議そうにコーンと彼を交互に見ている。
たっ、小さな足音と一緒に、彼の脚は止まった。
コーンの目の前。少し近すぎやしませんか。
そう思うも彼の表情がいやに真剣だったものだから茶化すような言葉など言えるはずもなかった。
コーンを見つめる彼は、たった数ヵ月の間に酷く大人びたようだった。
コーンに挑んできたときの何処か幼いひたむきさは、可愛いと形容するべきものであったけれど、今の彼からはあの頃の面影はすっかり感じられない。
真っ直ぐな瞳だけは、変わらないかなぁ、だなんてぼんやり考えていると、今まで黙っていた彼がおもむろに口を開いた。
「……俺は、コーンさんに会いに来ました」
「はぁ」
そんなこと、態々言ってくれなくてもこの状況を見ればわかります。
まぁきっと前置きみたいなものなのだろうから、一々突っ込んだりもしないけれど。
それから、彼は再び迷うような動作を見せたあと、意を決したようにコーンを見上げた。
「好きです、初めてバトルしたときから、ずっと」
「……え?」
「な、」
「……へぇ」
トウヤ君の言葉に、三人分の反応が返る。
ちなみに、上から、コーンポッドデントです。
何故か笑みを浮かべるデントと呆然とするポッド。
二人別々の反応で黙り込むが、コーンはそうはいかない(なんたって当事者だ)。
「あ、ありがとう、ございます」
しかし困ったことに自分でも驚くほどにテンパっていたらしい。
若干声が裏返っている上に、ありがとう、って、これじゃあ、まるで。
それでも、混乱するのも仕方がないと思うのだ。
急に訪ねてきていきなり、好きです、だなんて。
あぁ、でも、初めて見たときからじゃなく初めてバトルしたときから、ってところがトウヤ君らしい。
そう思ったら思わず吹き出してしまった。
そんなコーンを見て、トウヤ君は心外だと言うように唇を尖らせた。
「本気なんですけど、」
「分かって、ますよ」
「なんで笑うんですか」
「……いえ」
さっきまで緊張してした分、一旦それが溶けてしまうと今度はなんだか異様に笑いが込み上げてきて仕様がなくなる。
へらへらと笑い続けるコーンが、トウヤ君の気に障ったらしい。
彼はムッとした顔をすると、がっとコーンの首元を掴んだ。
流石にこれには驚いて、ついでにヒヤリと体の奥が冷える。
恐怖がコーンを支配した一瞬のうちに彼がぐいと近付いてきた。
何をされるか分からなかったけれど、反射的に目を閉じる。
何かしらの衝撃が来るものと思ったのだが、数秒しても何も起きない。
強いていうならば、唇に、少し――。
「!?」
まさかと思い恐る恐る目を開く。
彼は本当の本当に目の前だ。
まさかと思ったそのまさか。
トウヤ君がコーンに、キスを。
それを理解したとたんに胸からじわりとなにかが競り上がる。
恥ずかしさやらなんやらで、涙腺が弛むのが分かった。
初めてを奪われたのとか、兄弟の目の前だとか。
嫌だと思う要素は十二分にあるのにしかし嫌悪感があまりないのは何故なのか。
(答えなんて分かりきっているのでしょうけど!)
タイトルはルネの青に溺れる鳥様より
2011*03*08