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□愛ってなにか判らない
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気付けば彼を目で追っていた。

最初の頃は、意識的に。

彼がオレよりも強い理由を知りたかった。

けれど、いつからか無意識に彼の姿を捉えるようになった。

そうして、時折見える、柔らかな仕草に、少しずつ心奪われていることにも気付いていた。

たまにオレ達の目が合うときがある。

もしかしたらバダップもオレのこと見ていたり……そんなことを考えかけて、ありえないと首を横に振った。

ありえないといえば、オレの方も。

これじゃあまるで、オレの取り巻きの女達と何も変わりはしないじゃないか。

彼女達みたいな軽いミーハー心でないのは確かだけれど、そう思えば彼への感情を認めるのが嫌になる。

何より自分が自分以外を中心に考えていることに嫌気が差した。

苛立ちを払拭するために目の前のハンバーグにフォークを突き立てる。

カチャリと皿が下品な音を立てた。

オレの前の席に座るエスカバが、奇妙な目をしてオレを見ていたのが更に勘に障る。

「……むかつく」

睨み付けて言ってやれば、エスカバはやれやれという風にため息をついた。

オレの八つ当たりはいつものことだから、一々逆ギレしたりはしないらしい。

最初の頃はこれだけで、ものすごい口喧嘩に発展したのになぁ、つまらない。

「最近のお前ら、気持ち悪い」

エスカバがボソリと呟いた。

「……お前ら?」

お前、だったらオレ、なのだろうけれど、らとつくからには複数形。

そしてエスカバがオレとひとくくりにするであろう相手といえば、まず間違いなくバダップで。

それにしたって気持ち悪いって、一体なんだ。

不思議に思って首を傾げれば、気付いてないのかよ、と半ば呆れ気味なエスカバの声。

「お前も、あいつも。ちらちら相手の顔見てんの」

無意識?と嫌味ったらしく言うエスカバに眉根を寄せる。

馬鹿にしたように言われたことが腹立ったわけではない。

単に、驚いたのだ。

オレがあいつを見ていたことは自分で気付いていたがあいつが、オレを?

「……勘違いじゃないの?」

そう言ってやっと突き刺さったままのフォークを抜く。

ついでに一口肉を口に放る。

「勘違いじゃねぇだろ。あんなあからさまじゃ間違えようもないって」

「……ふぅん」

出来るだけ平淡な声で返す。

僅かにだけど、口角が上がってしまうのは抑えられなかった。

「ねぇ、バダップは?」

「部屋じゃねぇの?」

「ちょっと、行ってくる」

「はぁ?!おま、飯は」

「食べといて!」

言い捨てて立ち上がる。

そんな話を聞いたら本人のところへ行かずにはいかなかった。


「バダップ!!」

彼の部屋へ向かう途中の廊下で、バダップの姿を見付けた。

駆け寄れば、彼はいつもの無表情でオレを見た。

この様子だけ見ていると、エスカバの言ったように彼がオレを気にしているとは思えない。

「バダップってさ。オレのこと、好き?」

とりあえず包み隠さず直接聞いてみる。

バダップは少し怪訝な顔をしてから声を発した。

「好きか嫌いかで言えば、好きだが」

それがどうかしたかとでも言うようなニュアンスで返される。

予想よりも幾分薄い反応にやっぱりエスカバの勘違いじゃないかと唇を尖らせる。

しかし、よく見ればうっすら彼の肌が赤らんでいるような気がする。

どうしよう……可愛い、だなんて、思ってしまった。

それが最後、彼に触れたくて堪らなくなる。

(……ていうか)

我慢なんか出来なかった。

元から割と、本能に忠実な性分なのだ。

彼を引き寄せ、唇を合わせる。

彼が驚いたように目を見開いたのが見てとれた。

離れれば、いつになく唖然としたバダップの顔。

暫くすると、いつものように真面目な顔になった。

「……今の、」

何だ、と緊張気味に問い掛けられこちらが拍子抜けする。

バダップがこういうことに疎いのは分かっていたことだけれど。

もしかしたらこの分だと、彼がオレを見ていたのも無自覚なのかもわからない。


(ていうかキスも知らないの?)
(知っては、いるが……)
(……可愛い)












2011*03*09



 

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